『OKバジの賢慮の生き方』

『OKバジの賢慮の生き方』
川田 英樹 著/296頁/2400円+税/千倉書房
ネパール中西部・東パルパ地方の山奥に、「OKバジ」の愛称で現地の村人に親しまれる日本人がいる。本名は垣見一雅さん。東京の順心女子学園(現・広尾学園)で英語講師を23年間務めた後、1993年にネパールへ渡り、村人の支援活動を続けてきた。「バジ」とはネパール語で「おじいちゃん」を意味する。
本書はOKバジの賢慮に満ちた生き方を物語形式で紹介している。なぜ彼は教師を辞め、日本を離れてネパールの山村で支援活動を始めることになったのか。OKバジが暮らすのは、電気も水道もなく、薬局や病院すら存在しない山奥の村だ。彼は村々を歩き回り、人々の声に耳を傾ける。どうすれば生活が向上するかを共に考え、必要な資金は日本の支援者から募り、支援を続けてきたという。OKバジは支援者に詳細なレポートを送ることを欠かさない。自分の寄付が役立っていることを知った支援者は、周囲にOKバジの活動を伝えたくなる。そうして支援の輪が広がっていった。
最も大きく変化したのは初等教育だという。かつての東パルパでは、貧困のために半数の子どもが学校に通えなかった。だが今では、OKバジの尽力による支援が実を結び、奨学金制度などもできたおかげで、経済的な理由で就学できない子どもはいなくなった。さらに、村人自身が豚を育てて販売するなど、小規模なビジネスも生まれている。その結果、かつては仕事を求めて海外で出稼ぎするしかなかった男性たちが故郷に戻り、地域の担い手となるケースも増えているという。こうした物語から浮かび上がるのは、賢慮のリーダーシップのありようだ。
ここで言う賢慮とは、状況が絶えず変化する中で、何が正解かわからなくとも「より善い」方向を目指して行動する実践的な知恵である。
著者は一橋ビジネススクールMBAプログラムの第1期生。プログラム2年目に4つのユニークなオプションがあり、その1つが「電気も水道もないネパールの村で、3カ月間ボランティア教師を務める」ものだった。著者はここでOKバジと出会い、行動を共にすることになる。その後、彼の生き方を博士論文としてまとめたものが本書のベースになっている。
人間は、経験を通じて五感を駆使し、暗黙知を豊かにすることができると著者は言う。OKバジは東パルパの村々を巡り、村人と同じものを食べ、同じように暮らしてきた。村人と時空間を共有する中で、一人ひとりと深い関係を築き、互いに共感しながら暗黙知を共有してきた。その生き方から、実践知のリーダーシップを感じられるだろう。
新刊一覧
●教育学
世界の教育はどこへ向かうか
能力・探究・ウェルビーイング
白井 俊 著/232頁/900円+税/中央公論新社
「小一の壁」を検証する
就学の社会学
酒井 朗 編著/256頁/2700円+税/勁草書房
シュタイナー学校の造形教育
芸術によるWell-being実現の方法論
吉田 奈穂子 著/404頁/10000円+税/ミネルヴァ書房
●学校教育一般
教育コンサルが教える学校改革
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子ども教育のプロが教える
自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解
庄子 寛之 著/210頁/1600円+税/ダイヤモンド社
●学級経営
学級経営・授業づくり1日1技
サンバ先生の明日の教室が変わる教育実践
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事例とQ&Aでわかる!
みんなでやろうクラス会議実践ガイド
深見 太一 著/128頁/ 1950円+税/学陽書房
●ICT
先生のためのPadlet入門
子どもの気づきと学びを育む
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古矢 岳史、二川 佳祐、海老沢 穣、豊福 晋平 著/224頁/2100円+税/インプレス
●特別支援教育
はじめての〈特別支援学校〉12か月の仕事術
小学部・中学部・高等部
米谷 一雄、深谷 純一、渡辺 裕介、特別支援教育の実践研究会 編著/192頁/
3000円+税/明治図書出版
●人材育成・マネジメント
若手はどう言えば動くのか?
~相手を「腹落ち」させたいときの伝え方~
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世界標準のフィードバック
部下の「本気」を引き出す外資流マネジメントの教科書
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科学的に裏付けられた教えるスキル
飯山 晄朗 著/224頁/1600円+税/KADOKAWA
わたしたちのエンゲージメント実践書
株式会社アトラエ Wevoxチーム、田中 信 著/424頁/2500円+税/日本能率協会マネジメントセンター
できるリーダーが「1人のとき」にやっていること
マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている
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●その他
子どもの生きる力をのばす5つの体験
答えのない子育てで本当に大事なこと
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17歳のときに知りたかった受験のこと、人生のこと。
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子どもの脳は8タイプ
最新脳科学が教える才能の伸ばし方
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想像力をときはなつ
アートと教育が社会を変える
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注目の一冊

『私たちの「インクルーシブ学級」を
語り合おう』
阿部 利彦、川上 康則、菊池 哲平 編著/208頁/ 2000円+税/東洋館出版社
特別支援教育の専門家である編者らが、各地の教育現場で活躍する7名の教員と、「インクルーシブ学級」に向けた実践について語り合った。その課題と可能性を探求する鼎談集が本書だ。
インクルーシブ学級は、特別支援が必要な子どもだけのものではない。すべての子どもたちの学びをより豊かにするはずだ。未来の教室が、安心して過ごせる大切な学びの場であると同時に、一人ひとりの個性や能力を最大限に発揮できる場所であり続けるための道標でありたい。そうした願いを込めて編まれた一冊だ。