『教育政策をめぐるエビデンス』
「エビデンス」という言葉が当たり前に使われるようになってきた。教育政策を巡る議論でも同様に、エビデンスを求める姿勢が強まっている。だが、そのようにつくられた政策がエビデンスに基づいて実行されるとは限らない。そもそもエビデンスに基づいた教育の政策立案が、より良い教育につながるというエビデンスがあるわけでもない。現状をそう見る著者が、「なぜエビデンスに基づいた教育政策の議論は困難なのか?」を主たるリサーチクエスチョンに据え、その有用性と課題を論じるのが本書だ。
ここで検討されているのは、公立小中学校の児童生徒と教師を主な対象とする、学級規模に関するエビデンスに限定した教育政策だ。その理由について著者は2つの点を挙げている。まず、日本の義務教育における平等は学級規模を基準に設計されており、学級を単位として教師を配置することで全国的な教育機会と水準保証が規定されていること。さらに、学級規模は政策的にコントロール可能であるためだ。政策効果の研究は介入可能性の高い要因に着目しないとほとんど意味を持たないとの考えに依る。
副題にある学力格差への影響や、教師の労働との関わり、教育に向けた人々の公的支出の意識についての趨勢などについて、本書では緻密なデータ分析とともに検討されている。その一端を紹介しよう。例えば第4章では、全国学力・学習状況調査における5年間の追跡データを用い、学級規模の縮小が学力を向上させるのかについて検証している。著者の分析によれば、小規模学級ほど学力スコアが高くなるという知見が得られたという。その全体的な効果に関しては、小学6年生と中学3年生の両方に対し、全教科において統計的に優位な結果となった。だが、30〜41人未満学級から20人未満学級に変化した場合の効果は、学力スコア1ポイント未満と小さなものだった。こうした細やかな分析結果が示されている。
冒頭に紹介したリサーチクエスチョンの回答が終章で示されている。それは「エビデンスに基づく政策立案が父権主義的に利用されると、現場知が軽視されかねないため」だ。「政策の議論において重要なのは、エビデンスを中心に考えることではなく、目標となる社会状態を想定し、そこから逆算して政策体系を設計・検討すること」だと著者は主張する。さらに、「社会調査から得られるような『目が粗いが網の広い』データや現場知から有益な情報が得られることもある」と説く。昨今、あらゆる場面で幅を利かせるエビデンス至上主義に一石を投じる一冊だ。
新刊一覧
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「探究学習」ガイドブック
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はじめて学級担任になる
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成功をめざす人に知っておいてほしいこと 新版
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がんばらない教育
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注目の一冊
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