『探究モードへの挑戦 高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』

『探究モードへの挑戦 高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』

『探究モードへの挑戦
高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』

田村 学、佐藤 真久 編著、合田 哲雄、浅野 大介、田渕 六郎、白井 俊 著/280頁/3000円+税/人言洞

教育関係者ばかりでなく、知識の習得を中心とした従来型の受動的な学びに限界を感じる人は多いだろう。特に持続可能な社会をめざすSDGs時代の人づくりには、既存の制度や枠組みを変容させた学びの仕組みとして、「探究モード」への転換が求められる。そうした発想のもと、教育政策、学校改革、地域協働、国際研究などの最前線で活躍する6名の著者が、それぞれの研究・実践の成果と課題をふまえて縦割りの壁を越え、「探究モード」をキーワードに、これからの人づくりを積極果敢に論考するのが本書だ。

本書で語られる「探究」とは、自ら課題を設定し、自ら考え判断し、自ら行動していくことだ。平和で公正で持続可能な未来の構築に向け、複雑な問題に向き合い、さまざまな領域、分野、主体による学習と協働の連動性を高めるため、探究というアプローチが欠かせないと本書は主張する。

そのため、探究は学校教育だけで実施されるべきものではない。本書では、教育改革における探究の意味や価値などが理論的に掘り下げられていることに加え、日本各地の具体的な取り組みも紹介されている。そうした実践例の1つが、福島県双葉郡の8町村が2014年から共同で取り組む「ふるさと創造学」だ。震災や原発事故の経験を生きる力に変え、ふるさとへの誇りとともに、子どもたちが思いを持って自分で考え行動し(主体性)、多様な他者と一緒に(協働性)、知識や技能を活用し、状況に応じて課題を解決する力(創造性)を育むことをめざしている。そして、8町村の学校がそれぞれに地域特性を反映した探究的学習活動を実施し、その成果を共有しあう場として、毎年「ふるさと創造学サミット」が開かれているという。この取り組みから生まれる学びのコミュニティが、今後どのように展開していくかが注目される。

ほかにも本書の「探究」が取り扱う対象は広く、高等教育や企業の人材育成、生涯学習、地域協働なども射程に入れている。さらに、OECDや諸外国における探究の捉え方や、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)における人づくり、近年の国連プログラムであった「国連・ESDの10年」とその関連プログラムについても概観し、グローバルな動きも視野に入れた包括的な議論を展開している。

誰ひとり取り残すことなく、すべての人々が生涯にわたり探究する社会の創出に向け、さまざまな取り組みを俯瞰することで新たな視座や捉え直しを提言し、本書はめざすべき「生涯探究社会」に読者を誘う。

新刊一覧

●学校教育一般

シリーズ 学びとビーイング 1.
いま授業とは、学校とは何かを考える

河口 竜行、木村 剛、法貴 孝哲、皆川 雅樹、米元 洋次 編著/160頁/1500円+税/りょうゆう出版

カリキュラムマネジメントの理論と実践
田村 知子 著/256頁/3500円+税/日本標準

教師の自律性と教育方法
教育のデジタル化・協働的な学び・個別最適な
学びを解剖する

日本教育方法学会 編/184頁/2400円+税/図書文化社

学校安全のリデザイン
災害、事件、事故から子どもたちを守るために

宮田 美恵子 著/160頁/1800円+税/学事出版

高等教育

レジリエンスから考える
これからのコミュニケーション教育

村田 和代 編/224頁/2900円+税/ひつじ書房

ICT

デジタル×アナログ
学びのハイブリッドデザイン
西村 陽介 著/208頁/1960円+税/明治図書出版

●幼児教育

保育で! 親子で! 言葉の力や思考力を育む
なぞなぞ600
今井 和子 著/208頁/1400円+税/チャイルド本社

保育の困ったラクラク解決本
原坂 一郎 著/128頁/1200円+税/ひかりのくに

●特別支援教育

知的障害教育における「個別最適な学び」と
「協働的な学び」

名古屋 恒彦 著/184頁/1900円+税/東洋館出版社

ヒトはそれを『発達障害』と名づけました
筑波大学DACセンター 監修、佐々木 銀河 編、ダックス 著/104頁/1600円+税/金子書房

学校で適切に対応したい
「協働的な学び」

名古屋 恒彦 著/184頁/1900円+税/東洋館出版社

知的障害教育における「個別最適な学び」と
児童・生徒の困りごと 55

続・学校で知っておきたい精神医学ハンドブック
高宮 静男 著、服部 紀代 協力/240頁/2400円+税/星和書店

●人材育成・マネジメント

経営の本質
すべては人に始まり人に終わる

神山 治貴 著/264頁/1600円+税/ダイヤモンド社

心理的安全性を高めるリーダーの声かけ
ベスト100

田中 弦 著/352頁/1800円+税/ダイヤモンド社

人事制度改革大全
吉田 寿 著/348頁/3800円+税/中央経済社

●その他

地域教育経営論
学び続けられる地域社会のデザイン

荻野 亮吾、丹間 康仁 編著/236頁/2200円+税/大学教育出版

子どもたちに民主主義を教えよう
対立から合意を導く力を育む

工藤 勇一、苫野 一徳 著/232頁/1800円+税/あさま社

13歳からのプレゼンテーション
学校で、家庭で、社会で役立つ 相手を動かす伝え方が身につく本

松永 俊彦 監修/128頁/1720円+税/メイツ出版

注目の一冊

『大学のデジタル変革DXによる教育の未来』

『IB教育がやってくる!【改訂版】
「国際バカロレア」が変える教育と日本の未来』

江里口 歡人 著/180頁/1600円+税/松柏社

多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりを育む国際バカロレア(IB)教育が、日本にも徐々に浸透しつつある。

玉川学園でIBプログラム導入を牽引し、IB教員養成コースを立ち上げた著者は、日本におけるIB教育の第一人者。現在、日本IB教育学会会長を務める。好評を博した旧版の刊行から8年、大幅に改訂された本書は、IBの理念を徹底解説し、世界で通用する教育のあり方を示している。