『OECD教育DX白書─スマート教育テクノロジーが拓く学びの未来』
教育業界にもいよいよデジタル化の波が押し寄せている。大きな可能性を見出し、既に先駆的な取り組みを行っている現場もあれば、どこから始めてよいのか、戸惑いを隠せない学校もあるのではないか。
そこで、デジタルテクノロジーと教育の関係について、世界の最先端の事例を取り上げながら、OECDによる研究成果を取りまとめた本書が役に立つ。
本書が取り上げるテクノロジーは、人工知能(AI)やロボット工学をはじめ、ラーニングアナリティクス、モノのインターネット(IoT)、スマートデバイス、デジタル学習ゲーム、シミュレーション、仮想現実システム、大規模公開オンライン講座(MOOCs)、ブロックチェーンなど多岐にわたる。
例えば、第7章「教育者としてのソーシャルロボット」を見てみよう。教育におけるロボットは主に2つのカテゴリーに大別される。子どもたちがSTEM教育に熱中するためのツールとしてのロボットに加え、最近では教師としてのロボット(ソーシャルロボット)に注目が集まっている。オランダでは、言語学習、特に第二言語の個別指導にロボットチューターを用いる試みが行われているという。例えば、英語が母語の教師はフランス語の発音に苦労することが多いなど、人間の教師の場合、目標言語を話す十分な自信を備えていないこともある。その点、最新のコンピュータの音声は、今や人間の声とほとんど区別がつかないほどで、ロボットが教師よりも発音がよいこともある。こうした面からも、言語学習における教師、もしくはティーチングアシスタントとしてのソーシャルロボットに期待がかかっているのだという。
こうしたテクノロジーは、従来の教育を単にデジタル化するものではなく、学校内外の学びから教育機関の運営のあり方についての変革(DX)を起こす可能性を秘めている。本書はテクノロジーが教育の何をどのように変えているかに焦点を当て、OECDと第一線の研究者による最先端の知見から、スマート教育テクノロジーの有効活用について掘り下げていく。
先に触れたオランダ以外にも、中国、米国、インド、フィンランド、チリなど、各国の事例が盛り込まれ、世界の胎動を感じることができる。
なお、本書はOECDから新たに刊行されたシリーズ<OECDデジタル教育アウトルック>のスタートを飾る記念碑的な報告書でもある。今後さらに新たな知見が共有され、日本国内でもますます関心の高まる教育DXの推進に向けた議論のきっかけとなることを期待したい。
新刊一覧
●学校教育一般
学び続ける力と問題解決
シンキング・レンズ,シンキング・サイクル,そして探究へ
高橋 純 著/156頁/1800円+税/東洋館出版社
高等学校 真正(ほんもの)の学び、授業の深み
授業の匠たちが提案するこれからの授業
石井 英真 編著/288頁/2800円+税/学事出版
ウェルビーイングを実現する
「スクールリーダー」の仕事ルール
中村 浩二 著/224頁/2000円+税/明治図書出版
●学級経営
子どもも先生もオイシイ
笑いの技術
廣瀬 裕介 著/144頁/1950円+税/フォーラムA企画
授業を変えよう
菊池 省三 著/304頁/2200円+税/中村堂
子どものやる気は「動き」で引き出す
阿部 真也 著/180頁/1900円+税/東洋館出版社
子どもの心が軽くなる!
ソーシャルスキルモンスター
イト ケン太ロウ 著、小貫 悟 監修/140頁/2000円+税/東洋館出版社
●ICT
探究する学びをステップアップ!
情報活用型プロジェクト
学習ガイドブック2.0
稲垣 忠 編著/152頁/2460円+税/明治図書出版
●特別支援教育
感覚過敏の僕が感じる世界
加藤 路瑛 著/212頁/1400円+税/日本実業出版社
不登校でも学べる
学校に行きたくないと言えたとき
おおた としまさ 著/432頁/1150円+税/集英社
マンガで読む
学校に行きたくない君へ
不登校・いじめを経験した先輩たちが語る生き方のヒント
棚園 正一 著/191頁/1400円+税/ポプラ社
●人材育成・マネジメント
人的資本の活かしかた
組織を変えるリーダーの教科書
上林 周平 著/272頁/1600円+税/アスコム
マネージング・フォー・ハピネス
チームのやる気(モチベーション)を引き出すゲーム、ツール、プラクティス
ヨーガン・アペロ 著、寳田 雅文 訳/352頁/3000円+税/明石書店
パーパスモデル
人を巻き込む共創のつくりかた
吉備 友理恵、近藤 哲朗 著/208頁/2300円+税/学芸出版社
データドリブン経営改革
保科 学世 著/256頁/2000円+税/日本経済新聞出版
マネジメント3.0
適応力の高いチームを育むための6つの視点
Jurgen Appelo 著、藤井 拓 訳/480頁/5200円+税/丸善出版
●その他
犯罪心理学者が教える
子どもを呪う言葉・救う言葉
出口 保行 著/224頁/900円+税/SBクリエイティブ
幸せな自信の育て方
フランスの高校生が熱狂する「自分を好きになる」授業
シャルル・ペパン 著、児島 修 訳/264頁/1400円+税/ダイヤモンド社
注目の一冊
「学校の働き方改革」が言われて久しい。だが、コロナ禍で教職員の労働環境はますます悪化し、過労死や過労自殺する教師があとを絶たない。教師を「死と隣り合わせ」の仕事にしないために、どう動き出せばよいのか。
当事者遺族と教育研究家の共著である本書は、100件近くの過労死事案の収集・分析や国の統計データなどをもとに現実を鋭く掘り下げる。識者との意見交換も踏まえ、過労死を防ぐための具体策が提示されているとこに希望が見いだせる1冊だ。