『学び3.0─地域で未来共創人材を育てる「さとのば大学」の挑戦』

『学び3.0─地域で未来共創人材を育てる「さとのば大学」の挑戦』

『学び3.0─地域で未来共創人材を育てる「さとのば大学」の挑戦』 信岡良亮 著/240頁/1500円+税/発行:リテル、発売:フォレスト出版

「地域を旅する大学」を標榜する「さとのば大学」が、全国各地でユニークな教育プログラムを展開している。4年間で4つの地域に1年ずつ暮らしながら、自分で立てたテーマをもとに現地の人々とともに取り組むプロジェクト学習を実践。地域共創領域のトップランナーである講師陣や全国各地の在校生とオンラインでつながりながら、理論のインプットと対話を繰り返し、学びの最大化を図る。通信制大学とのダブルスクールで、学士の取得も目指せる。

さとのば大学発起人である著者は、その新しい学びのスタイルを「学び3.0」と呼ぶ。正解を学び、知識を増やすインプット中心の学びが「学び1.0」。一歩進んで、自分の興味をもとにデザインする主体的な学びが「学び2.0」だ。近ごろ既存の学校でも取り組みが増えている領域だ。そこをさらに発展させ、さとのば大学が実践する「学び3.0」とは、個人の興味関心に他者との関係性をかけ合わせ、ともに学び合いながら社会をつくる共創的な学びを指す。他者を巻き込もうとすれば、計画通りに進むとは限らない。対立が生じることもあれば、学んだことをいったん手放して再構築しなければならないこともある。そのため、濃密な関係性が築ける環境で、十分に時間をかけなければ成立し得ないのが「学び3.0」だ。だからこそ、さとのば大学では舞台として「地域」にこだわる。

本書で紹介されている学生の体験談を読むと、その学びの一端を垣間見ることができる。高知県出身の男子学生は、「高校卒業後は、縁もゆかりもない場所に行き、自分の力だけで勝負したい」と入学を決めた。1年目は岐阜県郡上市に移住し、故郷の高知で人気のパンに郡上の食材をかけ合わせたオリジナルパンの商品化を目指した。オンライン講義での学びも活かし、道の駅の社長に協力を依頼するも惨敗。失意の中、地域事務局の担当者からも厳しい言葉をかけられ、「心がボロボロに」なったという。だがその学生は時間をおいて内省した末、パンづくりの専門性を磨いたり関連する資格の勉強をしたりするなど、前向きな行動に切り替えた。思い通りにいかなかったことも「自分自身が変化する大事なきっかけ」だったと振り返り、「地域は学びだらけのキャンパス」だと語る。

さとのば大学では、先に座学で理論を学ぶのではなく、現場に出て、身体を動かすことから始める。得られる情報量は前者のほうが大きいかもしれないが、「筋肉」が育つのは間違いなく後者だと著者は力説する。教育関係者はもちろん、進路や将来に悩む若い読者にこそ、本書が届くことを願ってやまない。

新刊一覧

●教育学

戦後日本教育史
「脱国家」化する公教育
貝塚 茂樹 著/360頁/1100円+税/扶桑社

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい
教育について工藤勇一先生に聞いてみた
工藤 勇一 監修/160頁/1500円+税/Gakken

●学校教育一般

学校は誰のもの?
子ども主役の学校へ、いま名古屋から
名古屋市教育委員会 著、中谷 素之、松山 清美 編著/272頁/2100円+税/東洋館出版社

教師のためのセルフスタディ入門
協働的な問いによる実践の改善
アナスタシア・P・サマラス 著、武田 信子 監訳、セルフスタディ翻訳プロジェクトチーム 訳/410頁/4500円+税/学文社

令和版 学校のトリセツ
保護者と先生のための学校入門
福本 靖、今関 明子 著/184頁/1600円+税/かもがわ出版

●教科学習

現場から考える 国語教育が危ない!
「実用重視」と「読解力」
村上 慎一、伊藤 氏貴 著/80頁/680円+税/岩波書店

●学級経営

TAKT授業のデザイン
批判的対話がつむぐ笑顔の教室
田島 充士 監修、藤倉 憲一、武元 康明 編著/214頁/2400円+税/福村出版

●高等教育

ミネルバ大学の設計書
スティーヴン・M・コスリン、ベン・ネルソン 編著、松下 佳代 監訳/528頁/5200円+税/東信堂

高大接続と文章教育
中井 仁 著/218頁/1800円+税/大学教育出版

大学を問う
初期大学史研究会のあゆみ
別府 昭郎 著/196頁/2900円+税/学文社

●ICT

あなたのiPadを200%活用する
教師の授業術!

  こう 著/176頁/2100円+税/東洋館出版社

●特別支援教育

マインドチェンジでうまくいく!
配慮が必要な子どもの発達支援

藤原 里美 著/144頁/1800円+税/中央法規出版

発達支援、その先へ
自閉スペクトラム症児の早期社会
コミュニケーション行動に着目して
永井 祐也 著/276頁/3900円+税/春風社

●人材育成・マネジメント

女性活躍から始める人的資本経営
多様性を活かす組織マネジメント
堀江 敦子 著/272頁/2200円+税/日本能率協会マネジメントセンター

全員を稼ぐ社員にする、最強チームの作り方
金田 健也 著/224頁/1500円+税/ぱる出版

リーダー1年目のマネジメント大全
木部 智之 著/264頁/1700円+税/三笠書房

●その他

不登校の9割は親が解決できる
3週間で再登校に導く5つのルール
小川 涼太郎 著、小野 昌彦 監修/224頁/1600円+税/PHP研究所

勉強できる子が家でしていること
12歳までの家庭教育マニュアル
和田 秀樹 著/224頁/1500円+税/PHP研究所

チームを動かし結果を出す方法!
13歳からのリーダーの教科書
安部 哲也 著/248頁/1500円+税/総合法令出版

注目の一冊

『これで安心 学校での対話型AI活用Q&A

『これで安心 学校での対話型
AI活用Q&A』

筆野 元、村上 仁志 著/168頁/2000円+税/明治図書出版

ChatGPTをはじめとする対話型AIは、教育においても避けて通れないツールだ。一方、あまりにもパワフルなため、危惧する声も上がっている。

「教育現場における対話型AIの適切な活用法を広める緊急性を感じ」た著者らによる本書は、教育現場で対話型AIを活用する際の留意点や具体的な活用方法をQ&A形式で平易に解説。初心者にもわかりやすい。

「授業の流れを作成する時の質問」など、汎用性抜群のプロンプト(質問)例も収録され、読んだその日から教育実践に活かせるのが便利だ。