『学問としての教育学』

『学問としての教育学』

学問としての教育学
苫野 一徳 著/256頁/1700円+税/日本評論社

教育学は「役に立たない」学問と言われることが少なくない。著者は、教育とは何か、それはどうあれば「よい」と言いうるかという哲学的探究を底に敷き、その上で、そうした教育がいかに可能となるか、実証的かつ実践的に探究する必要があると言う。つまり、「哲学部門」「実証部門」「実践部門」という3部門から教育学を鍛え上げようという主張だ。本書の目的は、「学問としての教育学」を体系化することだと著者は述べる。

現在の教育が抱える大きな問題は2つに集約されるという。まず何より、「よい」教育とは何かを問う姿勢が欠けている。「規範欠如」の問題だ。さらに、深刻な「細分化」の問題も抱えている。それぞれの研究者は、みずからの限定的な研究領域内でのみ、一定の妥当性を持ちうる研究に勤しんでいる。研究知見が多く蓄積されているにもかかわらず、教育あるいは教育学全体にとって、それらをどのように協働的・相補的に活かしあえばよいのか、その理路を見失っている。そのため、教育学の歴史においては、異なった研究知見同士がさまざまな対立を続けてきた。

ではどうすればいいのか。著者の主張は、3部門それぞれに明確な「メタ理論」を構築し、かつそれらを「メタ理論体系」として体系化する必要があるというものだ。

ともすれば抽象的になりがちな「メタ理論」化だが、本書ではそれを明確に定式化することで読者の理解を促している。例えば「哲学部門」におけるメタ理論を、本書では広義の公教育の構想指針原理を明らかにするものと定めている。その指針原理に反する場合、家庭教育も社会教育も、「正当性」を持つことはできないのだという。

さらに、3部門相互の関係も体系化されている。例えば、「哲学部門」の役割は、「実証部門」と「実践部門」に対し、研究のメタ目的、つまり何のために何を研究すればよいかについて、根本的な指針を提供するものとなる、という具合だ。

著者の考えでは、「教育学のメタ理論体系」の最大の意義は、教育学研究が何のために、またどのように行われるべきであるかについて、最も根底的な視座を与えてくれる点にある。そうすることで、「役に立たない」学問と言われてきた教育学が、教室レベルから行政レベルにいたるまで、さまざまな現場にとって「役に立つ」ものになるはずだという。「よい教育」とは何か。教育学はいかに「科学」たりうるか。有効な実践理論・方法をいかに開発するか。こうした問題意識を持つすべての読者にとって、本書は確かな指針を示してくれるだろう。

新刊一覧

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鈴木 悠太 著/280頁/3800円+税/勁草書房

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校長1年目のあなたに伝えたいこと
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ICT主任の仕事術
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小・中学校ふだん使いのエピソードに見る1人1台端末環境のつくり方

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●特別支援教育

視覚障害のためのインクルーシブアート学習
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●幼児教育

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●特別支援教育

通常学級の発達障害児の「学び」を、どう保障するか
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なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか[新版]
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注目の一冊

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人と組織の行動科学
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