『100年学習時代 はじめての「学習学」的生き方入門』
「教育学」という言葉、学問分野は存在するけれど、「学習学」はないじゃないか。本書の著者が気づいたのは30年以上も前のことだ。日本の教育政策を方向づける「中央教育審議会」の委員は、大学教授や校長経験者が中心で、学ぶ側の代表は1人も入っていない。教える側に立った「教育学」ではなく、学ぶ側の立場に立った「学習学」をつくらなければ。そうした思いに駆られて奔走してきた著者の最新刊が本書だ。
「学習学」とは何か。著者の定義によれば、人間にとって最も基本的な行為である「広い意味での学習」について、学習者の立場に立って、体系的に研究する科学である。学校などで教わる知識を理解して自分の中に蓄えていく「狭い意味での学習」ではなく、「これはなんだろう?」「どうしてこうなるの?」などと、人があらゆることに対して興味・関心を持ち、それを理解していく営みが「広い意味での学習」だ。自分自身を見つめ、他者を理解しようと努め、自己変容をも促す学びのあり方である。
私たちは日ごろ、履歴書やプロフィールに「最終学歴」が記されることに無自覚過ぎるかもしれない。著者はこの言葉に大きな違和感を覚えるという。そもそも学歴とは、教育基本法の第一条に定められた学校を卒業あるいは修了した場合に獲得できるものに過ぎない。その代わりに著者が提唱するのは「最新学習歴」だ。人生の中に「学び終わり」があっていいはずがない。学びの対象は最先端の科学技術や国際社会の動向である必要はない。たとえギリシャ哲学や中国古典、仏教や伝統文化を学ぶとしても、学習者にとって「最新」であれば、それが「最新学習歴」となる。問うべきは他者との比較ではなく、過去の自分と比較して、どれだけ成長したかである。
著者の壮大な目標は「学習する地球社会(Learning Planet 2050)」のビジョンを提案することだという。「学習する存在(ホモ・ディスケンス)」としての人類が、自然から学び、歴史から学び、文化の多様性から学び合うことで、持続可能な世界を構築できると信じているからだ。「学習学」の提唱者として、30年以上にわたって考察と実践を重ねてきただけあって、本書にはこうした深い哲学と思想があふれている。その一方で、「学習の7原則」や「学びを身につけるための8つのステップ」といった実用的なノウハウも充実。リカレント教育やリスキリングの流行に物足りなさを覚える読者にとっても、学びのあり方、ひいては生き方をとらえ直すための好機となるだろう。
新刊一覧
●学校教育一般
『学び合い』 誰一人見捨てない教育論
西川 純 著/176頁/2060円+税/明治図書出版
教師行動力
振る舞いひとつで、
子どもの反応は大きく変わる!
田屋 裕貴 著/216頁/1900円+税/東洋館出版社
教師の自腹
「福嶋 尚子、栁澤 靖明、古殿 真大 著/328頁/2100円+税/東洋館出版社
フランス人記者、日本の学校に驚く
西村 カリン 著/288頁/1600円+税/大和書房
令和型不登校対応マップ
ゼロからわかる予防と支援ガイド
千葉 孝司 著/144頁/1860円+税/明治図書出版
●学級経営
教室の荒れ・問題行動対応ガイド
古田 直之 著/208頁/2200円+税/明治図書出版
●高等教育
「反・東大」の思想史
尾原 宏之 著/320頁/1800円+税/新潮社
●幼児教育
不安を自信に変える
保育のかかわり見直しBOOK
言葉かけから環境づくりまで
寳川 雅子 著/156頁/2000円+税/中央法規出版
生命と学びの哲学
育児と保育・教育をつなぐ
久保 健太 著/328頁/2000円+税/北大路書房
●特別支援教育
子どもが「発達障害」と
疑われたときに読む本
成田 奈緒子 監/100頁/1500円+税/講談社
知的障害・発達障害
自立活動の教材&指導アイデア
滝澤 健 著/168頁/2100円+税/明治図書出版
●人材育成・マネジメント
社員の働きがいをつくる
エンゲージメント
池田 秀一 著/176頁/1500円+税/ぱる出版
部下の育成は仕組みが9割
6000の現場で磨かれた実践メソッド
岡本 陽 著/192頁/1500円+税/みらいパブリッシング
どんな人も活躍できる
ディズニーのしくみ大全
大住 力 著/220頁/1540円+税/あさ出版
部下を知らない上司のための育成の極意
山田 真由子 著/176頁/1800円+税/労働新聞社
●その他
あなたの人生をダメにする勉強法
「ドラゴン桜」式最強タイパ勉強法で結果が変わる
青戸 一之 著、西岡 壱誠 監/268頁/1600円+税/日本能率協会マネジメントセンター
男子校の性教育2.0
おおたとしまさ 著/224頁/860円+税/中央公論新社
中学受験の落とし穴
受験する前に知っておきたいこと
成田 奈緒子 著/192頁/840円+税/筑摩書房
注目の一冊
教育現場にもAIが浸透しつつある。その活用に欠かせないのがICTだ。
「ICTがなくても授業はできる」という声もいまだにあるが、それは「車がなくても歩いていけばいいと言っているようなもの」と著者は一刀両断。さらに「ICTは手段にすぎない」という主張にも異を唱える。デジタル時代における児童生徒の将来にわたる成功の基盤を築くこと。これが学校教育におけるICT活用の本質だからだ。
ICT活用の基本から最新のAIツール紹介まで、読んだその日から教育現場に大きな変革をもたらすだろう。