『大学FD入門――教育改善に取り組む人の必携ガイド』

『大学FD入門 ─教育改善に取り組む人の必携ガイド』

『大学FD入門
─教育改善に取り組む人の必携ガイド』

中井 俊樹、西野 毅朗 編著、佐藤 浩章、竹中 喜一、上月 翔太 著/218頁/2500円+税/ナカニシヤ出版

学生の多様化、大学のグローバル化、情報技術の進展といった環境変化のスピードが加速するなか、大学に求められる教育の質も高まる一方だ。そこで必要となるのが「FD」の推進だ。FDとは「Faculty Development(ファカルティ・ディベロップメント)」の略称で、中央教育審議会によれば、「教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称」を指す。2008 年施行の大学設置基準改定で義務化されて以来、各大学でさまざまなFDが実施されることとなった。FDが日常化したのはいいが、どれほど実質的な効果を上げているだろうか。評価に対応するためだけの形式的な活動になってはいないか。そうした課題意識から、FDにかかわる教職員を支援する意図で編まれたのが本書だ。

本書の最大の特徴は圧倒的なわかりやすさにある。全14章構成のうち、まずは1章と2章に目を通せばFDの全体像が俯瞰できる。FDの特徴や課題から、効果的なFDの企画の立て方までがコンパクトに網羅され、初めてFD担当となった読者にも親切な設計だ。続く3章から12章では、教員研修、授業アンケートの活用、カリキュラム開発支援など、FDの具体的な方法が、最後の13章と14章でFDの評価と体制について示される。例えば、授業アンケートの活用に関する4章では、アンケート導入の歴史を紐解きながら、その意義を確認し、アンケート設計のコツ、効果的な結果共有の方法、さまざまなFDへの活用方法が紹介されている。授業アンケートの主な目的が授業改善の推進にあることは間違いないが、個別の教員による改善だけでなく、アンケート結果から導き出された教育課題の解決を目指すセミナーやワークショップを開くといったアイデアも示されており、いかに組織的なFDに発展させるかという視点が非常に実践的だ。

大学におけるFD担当者は教育学を専門とする教員ばかりではない。教員以外の一般の職員にも読みやすいよう全体を通して平易な言葉が用いられ、専門用語を使用する場合には丁寧な解説が付されている。巻末には、シラバスのチェックリストや授業観察記録用ワークシートのフォーマット、用語集など、FD実施に役立つ資料も充実している。

ひとくちにFDといっても、その定義や範囲は幅広く、各大学の裁量に任されている部分も大きい。だからこそ、学内でFDにかかわる担当者間での「共通言語」をつくるうえでも、本書は格好のガイドとなるだろう。

新刊一覧

●教育学

教育で語られがちなこと その奥にあるもの
渡辺 道治、古舘 良純 著/136頁/1700円+税/東洋館出版社

ナチスに抗った教育者
ライヒヴァインが願ったこと
馬 達雄 著/88頁/680円+税/岩波書店

●学校教育一般

学校とは何か
子どもの学びにとって一番大切なこと
汐見 稔幸 編著/368頁/1000円+税/河出書房新社

時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。
山田 剛輔、久保寺 節子、佐伯 胖 著/240頁/2400円+税/学事出版

学校を楽しくすれば日本が変わる
「常識」をひっくり返した「絶校長」の教育改革
古賀 賢 著/232頁/1600円+税/祥伝社

VUCAの時代を生き抜く力を育む
未来の「学び方」

岳野 公人 編著/144頁1960円+税/明治図書出版

校則と主権者教育
続・校則を考える
大津 尚志 著/192頁/2200円+税/晃洋書房

●学級経営

学級経営の心理学
子どもと教師がともに成長するために
弓削 洋子、越 良子 編著/234頁/2600円+税/ナカニシヤ出版

●高等教育

マインドフルな大学生
大学からはじめる!自らが望む人生を築くための実践ガイド
エリック・ラウクス 著、伊藤 靖、渋沢田 鶴子 翻訳編集/208頁/3000円+税/金剛出版

●ICT

教師のためのChatGPT ホントに使える
プロンプト2 カスタムインストラクション編

授業・校務の大革命!
田中 善将 監修、和田 誠、井上 嘉名芽、古川 俊、伊藤 圭亮 著/120頁/2000円+税/時事通信社

ICT教育の現実と未来
学校現場での実践と課題
古壕 典洋、手島 純 著/196頁/2300円+税/彩流社

●幼児教育

親子でできる
モンテッソーリ教育とマインドフルネス

集中力がアップし、感情コントロールができる子に!
島村 華子 著/176頁/1500円+税/創元社

まだまだあるぞ!保育現場の「なぞルール」
根拠のない習慣やルールを見直せば、
保育はもっとよくなる
石井 章仁 著/144頁/1600円+税/中央法規出版

●特別支援教育

学校に行けない子どもの気持ちと向き合う本
その子にあったオリジナルの未来を見つけよう
矢部 裕貴 著/224頁/1500円+税/ KADOKAWA

初めて「学習支援」に取り組む人のための
LD・学習困難のある子どもへの
「学習支援」入門

河村 暁 著/200頁/1800円+税/ソシム

●人材育成・マネジメント

組織の体質を現場から変える100の方法
沢渡 あまね 著/384頁/1800円+税/ダイヤモンド社

読むだけコーチング
三宅 俊輝 著、八木 真理子 イラスト/160頁/1600円+税/白夜書房

●その他

教育費の不安にこたえる本
前野 彩 著/216頁/ 1700円+税/日経BP

注目の一冊

『キャリア・スタディーズ これからの働き方と生き方の教科書』

『キャリア・スタディーズこれからの働き方と生き方の教科書』
田中 研之輔、遠藤野 ゆり、梅崎 修 編/264頁/2000円+税/日本能率協会マネジメントセンター

「キャリア」と聞くと多くの人は「仕事」を思い浮かべるだろう。だが、キャリアとは本来、仕事だけではなく人生全体の軌跡を表すものだ。

一人ひとりの生き方をデザインするキャリアデザイン学の専門家が、発達・教育キャリア、ビジネスキャリア、ライフキャリアなど、多様な視点から理論的かつ実践的に「キャリア」を解説。本書はいわば、VUCA時代を生き抜くためのキャリアの教科書だ。

これから社会に出る学生はもちろん、どの世代の読者にとっても、人生を考える指針となるだろう。