『教育改革を問う─キーパーソン7人と考える「最新論争点」』

『教育改革を問う─キーパーソン7人と考える「最新論争点」』

『教育改革を問う─キーパーソン7人と考える「最新論争点」』
中西 茂 著/304頁/2300円+税/教育開発研究所

教育改革が言われて久しい。特にこの十数年、インターネット環境に代表される社会変化が激しく、教育現場にもその対応が求められるなか、改革を叫ぶ声が加速している。本書は、教育ジャーナリストとして教育改革を30年近く追い続け、現在は玉川大学教育学部で教鞭をとる著者が、教育界の7人のキーパーソンにインタビューした内容をまとめたものだ。教員の資質能力や文部行政、ICT、働き方、生徒指導、コミュニティ・スクールなど、多岐にわたるテーマをもとに、最新論争点を考える視点を提示している。

例えば、GIGAスクールについては、コロナ禍でいち早くオンライン授業を実現し、「奇跡」とまで言われた熊本市の教育長・遠藤洋路氏にその意義を問うている。遠藤氏が就任した2017年、市内の学校のICT環境は全国最低レベルだったという。そこから一気にICT化を進めるには外部の力を借りる必要があると、熊本大学、熊本県立大学、NTTドコモと連携協定を結んだ。タブレット導入時には、教育委員会とドコモ社員らが各学校を回って一人ひとりに操作方法を教えたという。遠藤氏との対話は、教育現場のDXにおける情報共有の重要性にも及ぶ。

また、昨今話題の教員の働き方改革に関して、教育研究家の妹尾昌俊氏との対話も興味深い。自身の子育てを機に大手コンサル会社から脱サラして教育問題に関わるようになった妹尾氏は、今では「働き方改革のインフルエンサー」とまで言われる。妹尾氏はまず、部活動の改革など、各学校長の裁量権限でできることが多いと指摘。校長自身がその認識を持っているかどうかが肝心だという。もちろん校長任せにせず、教職員自身によるボトムアップも欠かせない。さらに改革の具体策として「早番」「遅番」のようなシフト制を導入したり、負担の重い進路指導は、キャリアコンサルタントを抱えるNPOに委託したりしてはと提案する。

本書の最後には、朝日新聞で長く教育記者を務める氏岡真弓氏との特別対談も収録。文部科学省などの教育行政を追う記者は、なかなか学校現場に足を運べないといった実情が語られ、「教育行政記者と現場を見ている記者が相互に影響しあう関係が大事」だと著者は言う。氏岡氏は、少子化による教育記事の読者減少に伴い、教育記者が育ちにくくなっている現状を指摘。教育政策の監視や検証という役割を大手マスコミに求めるなら、読者も無関係ではいられないことがうかがえる。本書を通じて教育問題の見方・考え方がわかるだけでなく、メディアリテラシーについても目を開かれるだろう。

新刊一覧

●教育学

最新教育動向2023
必ず押さえておきたい時事ワード60&視点120

教育の未来を研究する会 編/264頁/2000円+税/明治図書出版

●学校教育一般

先生が知っておきたい「仕事」のデザイン
教師1年目から1年間の見通しがもてる思考法

青山 雄太 著/208頁/2000円+税/明治図書出版

教師としてシンプルに生きる
若松 俊介、枡野 俊明 著/144頁/1600円+税/東洋館出版社

与論高校はなぜ定期考査と朝課外をやめたのか
改革を実現した学校マネジメント

甲斐 修 著/130頁/1800円+税/学事出版

私学流 多様性をインクルージョンする
「個別最適な学び」につながる取り組み

髙橋 あつ子、一ノ瀬 秀司 編著/176頁/2400円+税/学事出版

●外国語教育

外国語教育を変えるために
境 一三、山下 一夫、吉川 龍生、縣 由衣子 著/186頁/2400円+税/三修社

●学級経営

全図解 子どもの心を動かす学級経営アプローチ
佐橋 慶彦 著/176頁/1960円+税/明治図書出版

まちがいだらけの学級経営
失敗を成長に導く40のアプローチ

大前 暁政 著/272頁/2260円+税/明治図書出版

道徳的判断力を育む授業づくり
多面的・多角的な教材の読み方と発問

高宮 正貴、杉本 遼 著/200頁/2200円+税/北大路書房

グループ・アプローチでつながりUP!
学級経営のスタートがラクになる20のワザ

杉山 雅宏、平野 真理、金子 恵美子、相馬 誠一 編著/84頁/1800円+税/学事出版

●ICT

個別最適な学び×協働的な学び×ICT入門
佐々木 潤 著/192頁/2160円+税/明治図書出版

●幼児教育

こどもバイアス事典
「思い込み」「決めつけ」「先入観」に気づける本

犬飼 佳吾 監修、バウンド 著/128頁/1400円+税/カンゼン

●特別支援教育

発達の気になる子も楽しく学べるグループ課題69
幼児の社会性とことばの発達を促す教材集

宇賀神 るり子、吉野 一子 著/166頁/2000円+税/学苑社

感情コントロールに苦しむ子ども 理解と対応
楠 凡之、丹野 清彦 著/256頁/1700円+税/高文研

●人材育成・マネジメント

サステナビリティ人材育成の教科書
村上 芽、加藤 彰、渡辺 珠子 著/220頁/2600円+税/中央経済社

採るべき人 採ってはいけない人 第2版
採用に悩む小さな会社のための応募者を見抜く技術

奥山 典昭 著/298頁/1500円+税/秀和システム

●その他

小学校受験
現代日本の「教育する家族」

望月 由起 著/376頁/1000円+税/光文社

協働が拓く多様な実践
池田 玲子、舘岡 洋子、近藤 彩、金 孝卿(協働実践研究会)編著/368頁/2400円+税/ココ出版

アフターコロナの留学
尾崎 由博 著/240頁/1500円+税/総合法令出版

注目の一冊

『エピソードで学ぶ統計リテラシー 高校から大学、社会へとつながるデータサイエンス入門』

『エピソードで学ぶ統計リテラシー
高校から大学、社会へとつながるデータサイエンス入門』

山田 剛史、金森 保智 編著、石井 裕基、泉 毅 著/216頁/2100円+税/北大路書房

「朝食を食べないと学力が下がる」「日本の子どもは他国の子どもより自信がない」。よく耳にする話だが本当だろうか? そうした身近なエピソードや疑問から、統計の基本を興味深く学べるのが本書だ。

ともすれば混同しがちな「因果」と「相関」の違い、「平均」に隠された嘘など、うわべの数字にだまされず、数学的なセンスとクリティカル・シンキングを磨ける好著。データサイエンスの重要性が言われる今、高校数学から大学の統計学への接続を図るだけでなく、大人の学び直しにも最適。