『シン・学校改革』

『シン・学校改革』

『シン・学校改革』
西村 祐二 著/248頁/1600円+税/光文社

理不尽な教育現場の課題に、岐阜県立高校に勤務する現役教師が実名・顔出しで闘っている。本書は学校改革に向けた提言の書であり、同時にその過程を追った痛快なドキュメンタリーだ。著者は小劇場や自主映画の活動に明け暮れた後、29歳で教師になることを決意。32歳で初めて高校地歴科教諭として教壇に立った「変わり種」だ。芝居や映画の世界ではまったく芽が出なかった挫折感を味わった末、「生きることは大変だけど、めちゃくちゃ面白い」と子どもたちに伝えたく、教師になる覚悟を決めた。

教師になった著者が驚いたのは、非合理な雑務に忙殺され、授業の準備時間が「勤務時間中に1秒たりともなかった」ことだ。その元凶は、公立教員のみに適用される「給特法」。これにより、教員の残業は職務命令ではなく、管理職からの「お願い」を受け、各教員が「自発的」に行っていることになる。その結果、「定額働かせ放題」がまかり通っているのだ。教員の長時間労働は広く知られているが、よく言われる「働き方改革」という言葉では甘い。本書を読むとそう気づかされる。

こうした惨状を前に著者は闘うことを決意。だが現場の校長にかけ合っても埒が明かない。国に訴えようと思い立った著者は、まずツイッターでの発信を始めた。そこからの行動力には目を見張るものがある。SNS発信の縁で知り合った仲間と記者会見を開いたり、オンラインで集めた3万筆以上の署名を携えて文科省に直訴したりと、現役教師にできることは全て行った。その結果、2019年12月に成立した改正給特法には、給特法のさらなる見直しをはじめ、数多くの付帯決議が付いたのだという。

「定額働かせ放題」に挑む経緯を追った後には「ブラック校則」に挑む様子が綴られる。一律に横並びを求める校則の恐ろしさは、まわりと同じ色に染まれない子どもたちが、「自分は悪い子」と思い込んでしまうことだと著者は言う。無意識の同調圧力と罪悪感を植え付けてしまうのだ。児童生徒にせよ教師にせよ、教育現場で理不尽に傷つき、学校からドロップアウトを余儀なくされる悲劇を繰り返したくない。本書で訴えたいことはこれに尽きると著者は語る。

教育現場に山積する問題は一朝一夕に解決できるものではないだろう。だが読後感は決して重苦しいものではない。著者の経歴によるものか、愚直に闘い続ける奮闘ぶりには、まるでドラマを見ているような疾走感さえ覚える。骨太な内容でありながら、平易な文体で書かれており、理不尽な校則に傷ついた経験のある中高生にも薦めたい。

新刊一覧

●学校教育一般

結局、定時退勤が子どもたちのためになる
こう 著/176頁/1960円+税/明治図書出版

基礎から学べる【校長・教頭選考】
総合対策テキスト

勉強法から論文・面接・法規対策まで
『学校管理職合格セミナー』編集部 編/240頁/2100円+税/教育開発研究所

●学級経営

このクラス、ひょっとして隠れ学級崩壊?
吉岡 拓也 著/168頁/1800円+税/学事出版

「子どもが心を開いてくれない」と感じたら読む
先生のための「聞き方」の本
渡邊 満昭 著/224頁/2060円+税/明治図書出版

教師のための「後回しにしない」
仕事の鉄則

田中 翔一郎 著/224頁/2060円+税/明治図書出版

●高等教育

大学職員のリアル
18歳人口激減で「人気職」はどうなる?
倉部 史記 著、若林杏樹 イラスト/288頁/900円+税/中央公論新社

特色・進路・強みから見つけよう!
大学マップ
小林 哲夫 著/256頁/900円+税/筑摩書房

●ICT

「思考ツール×ICT」で実現する
探究的な学び
泰山 裕 編著/200頁/2200円+税/東洋館出版社

実践例&導入事例でわかる
明日からの教室のつくりかた
スクールタクトで始めるICT活用
インプレス教育ICT書籍編集チーム 著/160頁/1680円+税/インプレス

はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業
善きデジタル市民となるための学び
日本デジタル・シティズンシップ教育研究会 編/110頁/2200円+税/日本標準

●幼児教育

ある10人のこども
社会福祉法人大阪誠昭会 著、中村 真理子 監修、久下 裕二 文、ルノアール兄弟 絵/236頁/1300円+税/パレード

●特別支援教育

iPad×特別支援教育
学ぼう、遊ぼう、デジタルクリエーション
海老沢 穣 著/152頁/1900円+税/明治図書出版

●人材育成・マネジメント

部下も上司も動かす 武器としての伝え方
吉田 幸弘 著/304頁/1600円+税/自由国民社

1on1ミーティングの極意
本田 賢広 著/224頁/1500円+税/ワン・パブリッシング

●その他

こどもの夢中を推したい
小中学生の遊び・学び・未来を考える7つの対談集
佐藤 ねじ 著/280頁/1800円+税/freee出版

勉強しない子に勉強しなさいと言っても、
ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋

石田 勝紀 著/160頁/1300円+税/ダイヤモンド社

「ダメ子育て」を科学が変える!
全米トップ校が親に教える57のこと
星友 啓 著/240頁/900円+税/SBクリエイティブ

熟達論
人はいつまでも学び、成長できる
為末 大 著/218頁/1800円+税/新潮社

注目の一冊

『子どもの遊びを考える「いいこと思いついた!」から見えてくること』

『子どもの遊びを考える
「いいこと思いついた!」から見えてくること』
佐伯 胖 編著、矢野 勇樹、久保 健太、岩田 恵子、関山 隆一 著/248頁/2400円+税/北大路書房

いいこと思いついた!遊びの最中に子どもが発するこの言葉は、ごく自然な自発的なものに思える。だが本当に「自発的」なのだろうか。ふとした瞬間に降って湧いてくるものであって、子どもの意志で行えるものではないはずだ。そうだとすると、遊びそのものでさえ、真に「自発的」とは言えないのではないか。

こうした問題意識から本書では、「中動態」や「天然知能」などの概念を参照しながら「自発的な活動としての遊び」について多角的に検討。「遊び」の本質に迫り、新たな展望を拓く1冊だ。