『「日本に性教育はなかった」と言う前に』

『「日本に性教育はなかった」と言う前に ─ブームとバッシングのあいだで考える

『「日本に性教育はなかった」
と言う前に ─ブームとバッシングのあいだで考える』

堀川 修平 著/256頁/1800円+税/柏書房

「性教育の空白期間」。これは著者が接してきた学生や市民講座の参加者からよく聞かれる言葉だという。本当に性教育は実践されてこなかったのか。もちろんそんなことはない。誤認が生まれる背景の1つにあるのが性教育バッシングだ。教育実践の歴史を振り返り、今日の状況と往還しながら、そうしたバッシングに立ち向かうためのエッセンスを抽出しようと試みるのが本書だ。

戦後の日本には、性教育をめぐって3度のバッシングがあった。まずは「官製性教育元年」と呼ばれた1992年度、小学5年生の教科書に月経・射精および生命の誕生に関する内容が盛り込まれた。だが、「新純潔教育」を掲げる旧統一協会が、民間の教育団体「"人間と性"教育研究協議会」に対する批判キャンペーンを展開。約10年後の2003年、東京都立七尾養護学校(当時)で行われていた「こころとからだの学習」と呼ばれる性教育が不適切だとして、東京都教育委員会教育長らが非難。「視察」の際に多くの教具が持ち去られる事件が起こった。裁判で学校側が勝利するも、以後、性教育はハレモノ扱いになる。次は2018年のことだ。東京都足立区立中学校で行われた授業をめぐり、保守派都議が教員らを名指しして「不適切な性教育」と批判。またしてもバッシングへの火種がまかれたが、このときは従来とは違う流れが生まれた。SNSを中心に批判への批判が巻き起こり、大手マスメディアまでが性教育の必要性を説く結果となった。これがその後の「性教育ブーム」につながったと著者は考察する。

そもそもバッシングは、ジェンダー・セクシュアリティに関わる施策の推進に対し、それを揺り戻そうとするときに起こるものだ。つまり、バッシングは性にまつわる権利保障が前に進んでいる証左でもある。だからこそ、せっかく進みつつある権利保障を後退させないために、バッシングを「跳ね返す武器」として磨くことを目指すべきだと著者は主張する。副題に込められた思いもそこにあるのだろう。

性教育に限らず、教育には即効性がない。だからこそ、なかなか結果が出なくても実践を止めることなく、長いスパンで考える必要がある。バッシングに遭いながらも積み重ねられた実践の歴史を掘り起こし、学び、伝えていくことが、ブームとバッシングのあいだで揺れる振り子を止めて、子どもたちに性教育や性の多様性に関する知識を届け、社会に多様な居場所をつくることにつながる。本書を読むと、そうした著者の信念が伝わってくる。

新刊一覧

●教育学

教育哲学事典
教育哲学会 編/666頁/22000円+税/丸善出版

●学校教育一般

困難な教育
悩み、葛藤し続ける教師のために
めがね旦那 著/212頁/1700円+税/学事出版

●学級経営

個別最適をつくる教室環境
多様な学びを創り出す「空間」リノベーション
野中 陽一、豊田 充崇 編著/144頁/2100円+税/明治図書出版

特別支援教育の視点で考える
学級担任の仕事術100

増田 謙太郎 著/160頁/1860円+税/明治図書出版

不適切な関わりを予防する
教室「安全基地」化計画
川上 康則 編著、武田 信子、村中 直人、荻上 チキ 著/384頁/2100円+税/東洋館出版社

授業づくりの言いかえ図鑑
三好 真史 著/160頁/1700円+税/東洋館出版社

●高等教育

君は大学で何を学ぶべきか
小池 一夫 著/248頁/1800円+税/論創社

高等教育の専門家をどう育成するか
日本高等教育学会 編/206頁/2800円+税/玉川大学出版部

大学の教務Q&A 第2版
中井 俊樹、宮林 常崇 編/180頁/1800円+税/玉川大学出版部

●幼児教育

今、この子は何を感じている?
0歳児の育ちを支える視点
無藤 隆 監修、宮里 暁美、大方 美香ほか 著/120頁/1800円+税/ひかりのくに

●特別支援教育

LDは治癒可能
学習するとニューロンの構造が変わる
玉永 公子 著/208頁/2000円+税/論創社

●人材育成・マネジメント

コミュニケーションの問題地図
「で、どこから変える?」意識バラバラ、情報共有できない職場
沢渡 あまね 著/256頁/1600円+税/技術評論社

成長したい人のための「1on1」
活用バイブル

上司との対話で最大の成果を得る!
佐々木 葉子 著/128頁/1630円+税/メイツユニバーサルコンテンツ

●その他

知ってる?
ジェンダー・セクシュアリティ
  マンガ カラフルKids

手丸 かのこ マンガ、渡辺 大輔 監修・解説/162頁/1500円+税/子どもの未来社

境界知能の子どもたち
「IQ70から85未満」の生きづらさ
宮口 幸治 著/208頁/900円+税/SBクリエイティブ

10代の脳とうまくつきあう
非認知能力の大事な役割
森口 佑介 著/208頁/860円+税/筑摩書房

世の中を知る、考える、変えていく
高校生からの社会科学講義
飯田 高、近藤 絢子、砂原 庸介、丸山里美 編/332頁/2200円+税/有斐閣

注目の一冊

『子どもの遊びを考える「いいこと思いついた!」から見えてくること』

『授業・校務が超速に !さる先生のCanvaの教科書』
坂本 良晶 著/128頁/1900円+税/学陽書房

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