『協働する探究のデザイン──社会をよくする学びをつくる』

『協働する探究のデザイン─社会をよくする学びをつくる』

『協働する探究のデザイン
─社会をよくする学びをつくる』

藤原 さと 著/304頁/2600円+税/平凡社

社会では「答え」のないことに向き合い続ける必要があるにもかかわらず、通常の学校教育では素早く「正解」にたどり着くことばかりに重きが置かれているのはおかしい。こうした問題意識を抱いた著者は、教育の門外漢ながら、「良質な探究の一般普及」を理念に掲げる一般社団法人「こたえのない学校」を設立。学校教員や民間の教育者たちが探究する学びの場「Learning Creator's Lab(LCL)」を立ち上げ、実践を重ねてきた。著者自身、研究者ではなく一探究者としてかかわるなかで、「探究」とは何かを問い続ける現在進行形の手記が本書である。

第1章では、プラトンやアリストテレスにまで遡って探究の歴史を紐解き、第2章では世界のさまざまな探究学習を概観する。国際バカロレアやオランダのイエナプラン、米国のプロジェクト型学習などとともに、日本の生活・総合学習についても紙幅が割かれ、国内外の取り組みの関連性が垣間見える。第3章以降は、書名にもなっている協働する探究の構造、探究における問いのデザイン、探究の評価のデザインなどを主軸に、さまざまな事例を交えながら、具体的な方策が深掘りされている。

協働する探究における「軸」とされているのが、「本質的な問い」「中核となる概念理解」「解決したい課題」の3つだ。ここでは「解決したい課題」に関連し、米国のデザインファームIDEOが提唱したデザイン思考を使った授業開発に触れているくだりを紹介しよう。拡散的思考と収束的思考を繰り返すことで、当初は思ってもみなかったクリエイティブなアイディアが出てくるのがデザイン思考の面白さだと著者は述べる。LCLでもこの手法を用い、実際の授業に生かせるプロジェクトを生み出しているという。

最後に著者は、「何のための探究か」と改めて問う。探究には、より善いものと悪いものがあり、その見極めが肝要だというのだ。例えば、ビジネスの世界では自社が勝つことだけが優先され、倫理は最低限しか介在しないことも多い。社会・経済的な格差や人権、平和、環境といった問題に、真摯にかつ積極的にかかわる探究が増えなければ、世の中は決してよくならないと著者は危惧する。

何のための探究か。著者がわかりやすい「正解」を提示することはない。「答えが見えていないなかで、すったもんだするのが探究といっていい」からだ。だが、「先が見えなくとも、まずは歩き出さなくてはならない」。著者はそう言って読者の背中を押す。「探究」が流行り言葉で終わらず、真に主体的・対話的で深い学びが主流になるようにと願う著者の思いが伝わってくる。

新刊一覧

●教育学

図解でマスター!
実践教育法規2023年度版
田中 博之 編著/132頁/1640円+税/小学館

これからの「学び」の話をしよう
木村 明憲、佐藤 和紀、若松 俊介 著/224頁/2060円+税/明治図書出版

●学校教育一般

子どもたちの学びが深まるシン課題づくり
樋口 万太郎 著/176頁/1760円+税/明治図書出版

若手先生の若手先生による
子どものための教育マネジメント

杉本 敬之、村松 秀憲 著/160頁/2000円+税/人言洞

きみが校長をやればいい
1年で国公立大合格者を0から20名にした
定員割れ私立女子商業高校の挑戦
柴山 翔太 著/240頁/1650円+税/日本能率協会マネジメントセンター

●学級経営

生徒指導主任 365日の仕事大全
丸岡 慎弥 著/176頁/2160円+税/明治図書出版 子どもも先生も思いっきり笑える73のネタ
+おまけの小ネタ7大放出!

中村 健一 著/96頁/1720円+税/黎明書房

●ICT

逆境に負けない
学校DX物語
魚住 惇 著/176頁/2200円+税/学事出版

子どもの思考を深めるICT活用
公立義務教育学校のネクストステージ
柏木 智子、姫路市立豊富小中学校 編著/128頁/2200円+税/晃洋書房

●幼児教育

育児=育自
OTSU 著/216頁/1500円+税/秀和システム

保育ファシリテーション
園内研修と会議が劇的に変わる
鈴木 健史 著、矢藤 誠慈郎 解説/80頁/2700円+税/フレーベル館

●特別支援教育

発達障害のある子どもに寄り添う
大切な「ミカタ」

鈴木 徹 著/96頁/1500円+税/東洋館出版社

●人材育成・マネジメント

小さな会社は「人を大切にする経営」で成功する
暮松 邦一 著/208頁/1500円+税/白夜書房

だから、スターバックスはうまくいく。
スタバ流リーダーの教科書
毛利 英昭 著/288頁/1500円+税/総合法令出版

性格のいい会社
佐藤 雄佑 著/272頁/1580円+税/クロスメディア・パブリッシング

ガラスの天井を破る戦略人事
なぜジェンダー・ギャップは根強いのか、克服のための3つの視点
コリーン・アマーマン、ボリス・グロイスバーグ 著、藤原 朝子 訳/384頁/2200円+税/英治出版

●その他

深志の自治
地方公立伝統校の危機と挑戦
井上 義和、加藤 善子 編/286頁/1900円+税/信濃毎日新聞社

子どもの異変は「成長曲線」でわかる
小林 正子 著/192頁/900円+税/小学館

注目の一冊

『学校がウソくさい新 時代の教育改造ルール』

『学校がウソくさい
新 時代の教育改造ルール』

藤原 和博 著/304頁/910円+税/朝日新聞出版

学校は社会の縮図と言われるが、その現場がいつの時代にもましてウソくさくなっている。特に公立の義務教育の場が著しいと著者は手厳しい。

教員はスーパーマンではない。だが、世間からの過剰な期待を背負い、本来すべき仕事ができないのが現状だ。学校の「不都合な真実」を次々と明らかにし、教育現場の理不尽を徹底的に問う。そのうえで、実現可能な解決策と新時代の授業を提示する。

「教育改革実践家」を名乗る著者ならではの、学校再生に向けた「原点回帰」の処方箋が詰まった一冊だ。