『キャリアブレイク――手放すことは空白(ブランク)ではない』

『キャリアブレイク ─手放すことは空白(ブランク)ではない』

『キャリアブレイク
――手放すことは空白(ブランク)ではない』

石山 恒貴、片岡 亜紀子、北野 貴大 著/240頁/2600円+税/千倉書房

「私、今、無職です」。胸を張ってそう言える人は多くないだろう。人生100年時代と言われるなか、新卒時に就職した組織で定年まで勤め上げるとは限らず、何度か職を変えることも珍しくない。その合間に「ブランク」が生じても不思議ではないはずだ。だが、それを忌避する空気が未だに根強いのではないか。何もしていないこと、すなわち無職と見られることが居心地悪いからだ。特に女性の場合、出産や育児のために離職を余儀なくされることも多い。子育てが一段落したからと言って、以前同様に働ける職場を探すことが難しいのは周知の通りだ。

こうして、望むと望まざるとにかかわらずブランクを経験することになった場合に、その期間をネガティブに捉えるのではなく、将来に備える「キャリアブレイク」とポジティブに捉えようと提唱するのが本書である。

キャリアブレイクとは、「今まで中心的に活動してきたキャリアの役割を手放すことによって、新しいキャリアの役割に向けて自分と社会を見つめ直している期間」と本書は定義する。ここで留意すべきは、「キャリア」という言葉には、「ワーク(職業)キャリア」と「ライフ(人生)キャリア」という2つの意味があることだ。転職の合間、キャリアにブランクが生じてしまうという懸念は、ワークキャリアのみを想定しているために起こることだ。著者らの述べるように、私たちは職業生活だけで生きているわけではない。家庭生活、地域とのつながりや友人付き合い、病気や介護と向き合うこともまた大事なライフキャリアである。コロナ禍を経てリモートワークが当たり前となり、仕事とプライベートの境界が曖昧になったと感じる人も多いだろう。そもそも「ワークとライフを切り離して考えることは、むしろ不自然」だと著者らは言う。ワークキャリアはライフキャリアの一部と捉えることが、キャリアブレイクの前提となる。

では、実際には「ブレイク」をどのように過ごせばいいのだろうか。本書では8名の実践者の事例を紹介する。各人の背景や経緯はさまざまだが、キャリアブレイクのゴールは特定の職種に就くことではなく、「ありたい自分」を見出すことだと著者らは見る。ブレイク期間中に「ありたい自分」にたどり着けるとは限らないが、全員が以前よりも自然体で自分らしさを楽しんでいる様子が描かれている。

キャリアに空白(ブランク)など存在しない。著者らはそう主張する。働き方や生き方を見なおしたい人には、ぜひ一読を勧めたい。

新刊一覧

●教育学

諸外国の教育動向 2023年度版
文部科学省 編著/304頁/3600円+税/明石書店

●学校教育一般

「探究」と「概念」で学びを育む!
小学校 国際バカロレアの授業づくり
中村 純子、秋吉 梨恵子 編著/136頁/2300円+税/明治図書出版

「未来の学び」をデザインする 新版
空間・活動・共同体
美馬 のゆり、山内 祐平 著/256頁/3300円+税/東京大学出版会

新装版
授業がうまい教師の
すごいコミュニケーション術

菊池 省三 著/136頁/2000円+税/学陽書房

高校生のための「探究学習」ワーク
廣瀬 志保 編/112頁/1200円+税/学事出版

●学級経営

新装版
いま「クラス会議」がすごい!
赤坂 真二 編著/152頁/2000円+税/学陽書房

クラスが最高に盛り上がる学級レク!
「脱出ゲーム」大全
樋口 万太郎 著/112頁/1800円+税/明治図書出版

●高等教育

「最近の大学生」の社会学
2020年代学生文化としての
再帰的ライフスタイル
小川 豊武、妹尾 麻美、木村 絵里子、牧野 智和 編著/256頁/2700円+税/ナカニシヤ出版

ミネルバ大学を解剖する
松下 佳代 編著/328頁/3200円+税/東信堂

●ICT

実践事例で学ぶ
生成AIと創る未来の教育
小原 豊、金児 正史、北島 茂樹 編著/156頁/2100円+税/東洋館出版社

●幼児教育

幼児教育と小学校教育が
つながるってどういうこと?

幼児教育と小学校教育の円滑な接続のための参考資料
文部科学省 著/112頁/1700円+税/東洋館出版社

受験も人生も楽しめる!3~9歳 
理系脳・運動脳が育つぺたほめ親子あそび

藤田 敦子 著/192頁/1500円+税/小学館

●特別支援教育

発達障害の子どもに伝わることば
川﨑 聡大 著/240頁/950円+税/SBクリエイティブ

不登校クエスト
内田 拓海 著/248頁/1500円+税/飛鳥新社

●人材育成・マネジメント

マネジメントのリスキリング
ジョブ・アサインメント技法を習得し、
他者を通じて業績を上げる
大久保 幸夫 著/256頁/2500円+税/経団連出版

イノベーターシップ
自分の限界を突破し、未来を拓く5つの力
徳岡 晃一郎 著/288頁/2700円+税/東洋経済新報社

入門 人的資源管理論
佐藤 飛鳥、浅野 和也、橋場 俊展 編著/268頁/2900円+税/法律文化社

●その他

学力喪失
認知科学による回復への道筋
今井 むつみ 著/330頁/1160円+税/岩波書店

読書効果の科学
読書の“穏やかな”力を活かす3原則
猪原 敬介 著/276頁/3000円+税/京都大学学術出版会

注目の一冊

『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』

『アルムナイ
雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』

鈴木 仁志、濱田 麻里 著/256頁/2000円+税/日本能率協会マネジメントセンター

 「アルムナイ(alumni)」とは退職者のことだ。海外では、退職後もコンタクトを取り続け、再び採用する「アルムナイ制度」を取り入れている企業も多いが、日本ではまだ少ない。

せっかく築き上げた関係が退職で失われるのは、退職者本人にとっても組織にとっても大きな損失ではないか。せっかく築き上げた関係が退職で失われるのは、退職者本人にとっても組織にとっても大きな損失ではないか。

本書は退職者との関係性を築く「アルムナイ・リレーションシップ」について詳しく解説。退職で終わらない「企業と個人の新しい関係」の実現を目指す上で格好の実用書だ。経営層や人事担当者に必読の一冊。