『みんなの「今」を幸せにする学校─不確かな時代に確かな学びの場をつくる』

『みんなの「今」を幸せにする学校─不確かな時代に確かな学びの場をつくる』

みんなの「今」を幸せにする学校─不確かな時代に確かな学びの場をつくる
遠藤 洋路 著/256頁/1700円+税/時事通信出版局

「豊かな人生とよりよい社会を創造するために、自ら考え主体的に行動できる人を育む」。この教育理念を掲げ、熊本市の教育改革を大胆に進める教育長が本書の著者である。本書はまずこの基本理念を掘り下げ、次に子供が当事者となる学校づくり、授業の改善とICTの活用、教職員が力を発揮できる環境や仕組みづくり、学校運営全体の改革と教育委員会の役割など、具体的な学校改革の内幕やノウハウが語られていく。最後に、著者が考える未来の学校と公教育の姿が提示されている。

例えば子供が当事者となる学校づくりについては、校則づくりに子供たちを参画させる取り組みが紹介されている。社会のルールを自らつくる民主主義の基本を学び実践するには、学校のルールである校則を子供という当事者不在でつくるのはおかしいという発想だ。熊本市内の小中学校では、保護者や教職員を含め、校則見直しの協議を年1回以上行っているという。

ICTの活用について著者は、「子供が主役の授業」を実現するという明確な目標を掲げる。そのためには「よい授業」が欠かせないのは当然だが、一部の優秀な教師だけでなく、すべての教師が行えるようにできる点にICT導入のメリットがあると著者は述べる。スムーズな導入のため各学校に「情報化推進チーム」をつくり、チームごとに教育委員会の研修に参加したり、チーム内で情報共有したりしながらほかの教員をサポートし、学校全体のレベルアップを図れるよう工夫しているという。

こうした個別の改革に向けた取り組み事例を挙げながら、著者は「将来」から「今」へバランスをシフトすれば、教育はかならず変わると主張する。現行の教育基本法では、学校教育の目的や目標は、将来的に個人と社会のために必要となる資質を身につけることにある。つまり、本質的に「未来のための行為」である。だが、子供たちが「今」を生きている現場である学校だからこそ、もっと「今」を考慮しなければならないと語る。

最終章で著者は、「子供包括支援センター」としての学校の役割を提示している。コロナ禍をはじめ、予測困難な時代に確かな学びの場をつくるには、狭義の「教育」機能を担うだけでは不十分だ。子供の生活全般を保障するため、放課後児童クラブ(学童保育)の拡充と学校との融合が第一歩になると構想する。そうすることで、将来への備えとして基礎学力を身につけるためだけでなはく、子供たちに「今」の幸せを提供できるだろうと語る。それがタイトルに込められた思いだ。

新刊一覧

●教育学

実践につながる教育原理
國崎 大恩、藤川 信夫 編著/209頁/2200円+税/北樹出版

共に創り出す公教育へ
社会知性を身につけた教師として

嶺井 正也、森田 司郎、福山 文子 編著、山口 晶子、真壁 直人、五十嵐 卓司 著/248頁/2500円+税/八千代出版

教育裁判事例集
裁判が投げかける学校経営・教育行政へのメッセージ

佐々木 幸寿 著/200頁/2500円+税/学文社

●学校教育一般

高校生のための「探究」学習図鑑
田村 学 監、廣瀬 志保 編著/152頁/6000円+税/学事出版

生徒指導・進路指導の理論と実践
今西 幸蔵 編/150頁/2200円+税/法律文化社

探究プロジェクトの最前線
国際バカロレア(PYP)の理論と実践

山内 紀幸 編著/186頁/2200円+税/一藝社

●学級経営

子どものやる気を最大限に引き出す教師の50の習慣
三浦 剛 著/136頁/1760円+税/明治図書出版

学校が変われば、授業が変わる!
新しい研究授業の進め方

田中 博史、河内 麻衣子 編著、豊島区立高南小学校 執筆/256頁/2100円+税/東洋館出版社

●高等教育

大学におけるオンライン教育の現状と展望
早稲田大学教育総合研究所 監修/90頁/1200円+税/学文社

●ICT

ICT主任になったら読む本
実務がうまくいく心構え&仕事術35

小池 翔太、鈴木 秀樹、佐藤 牧子 著/144頁/1860円+税/明治図書出版

よく分かる教育DX
1人1台のPCとクラウド活用で何が変わる?

日経パソコン 編/100頁/1500円+税/日経BP

●幼児教育

子どもの才能を伸ばす5歳までの魔法の「おしごと
世界で一番簡単なモンテッソーリ実践法

丘山 亜未 著/224頁/1450円+税/青春出版社

子どもに伝わる魔法の「ほめ方」「叱り方」
モンスター三つ子男子の母ちゃんが見つけた

島谷 留美 著/208頁/1400円+税/講談社

21世紀の教育
子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点

ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ、井上英之 監訳/232頁/1400円+税/ダイヤモンド社

●特別支援教育

ケースで学ぶ不登校
どうみて、どうする

長尾 博 著/148頁/2300円+税/金子書房

知的障害者とともに大学で学ぶ
東北大学オープンカレッジ「杜のまなびや」の取り組み

田中 真理、川住 隆一、野崎 義和、横田 晋務 編/254頁/3200円+税/東北大学出版会

●人材育成・マネジメント

DX人材の育て方
ビジネス発想を持った上流エンジニアを養成する

岸 和良、杉山 辰彦、稲留 隆之、中川 邦昭、辻本 憲一郎 著/224頁/2000円+税/翔泳社

「学びほぐし」が会社を再生する
企業とファンドの組織変革物語

安嶋 明 著/180頁/2000円+税/岩波書店

注目の一冊

ビジネス・スクールでは「ケース・メソッド」と呼ばれる教育手法が長く使われているが、その「ケース」の書き方を徹底的に分析したのが本書だ。

メディアと学術という2つの「世間(世界)」を経験し、両者の境界線に立つ「マージナルマン」を自負する著者は、ビジネス・ジャーナリズムとアカデミズムが融合し、読ませる「ケース」が増えれば、多くの人が経営学に興味を持つようになり、深い洞察が可能になると見る。実例を豊富に盛り込み、「ケース」のあるべき姿と書く心得に迫る異色の定性的方法論である。