『「居場所」難民―報道記者が見た不登校の深層』

『「居場所」難民―報道記者が見た不登校の深層』

『「居場所」難民
―報道記者が見た不登校の深層』
四宮淳平 著/156頁/1600円+税/
学びリンク

不登校をめぐる議論は近年ますます切実さを増している。文部科学省の調査では、中学生の約15人に1人が学校に通えていない。地域によっては5人に1人に達し、もはや例外的な問題とは言えない。西日本新聞の教育担当編集委員として、長年にわたり不登校を取材してきた著者は、わが子の不登校を経験した当事者でもある。記者としての視点と親としての痛切な体験を交え、不登校を単なる「学校に行かないこと」とせず、その背後に潜む多様な要因を描き出しているのが本書の大きな特色だ。

いじめの傷、教師の理解不足、家庭内の葛藤など、不登校の影響は一様ではない。著者は取材を通じ、無理に登校させない心構えの重要性を理解していたが、いざ自分の子どもが学校に行けなくなると動揺し、「行ってほしい」と願ってしまったという。その告白は多くの親が抱える矛盾を率直に示している。

不登校が家庭や社会に及ぼす影響も描かれる。親は勤務に支障をきたし、孤立感に苦しむ。そのなかで親の会や支援団体が果たす役割は大きく、多くの親が「孤独が癒えた」と語るという。当事者同士のつながりが、制度的支援に劣らぬ力を持つことが伝わってくる。

画一的な授業など、従来の学校の仕組みが持つ課題にも目を向けながら、著者は「学校に行かない=脱落」という構造を転換すべきだと訴える。学校外で学ぶことを「普通」の選択肢として認め、フリースクールやオンライン学習など、多様な場を社会的に承認する必要がある。だがフリースクールの経営状況は極めて脆弱だ。自信を取り戻した子どもたちが学校に戻ると、その分の利用料がなくなるためでもある。社会における公的な役割を民間団体が担っていることの困難さを著者は指摘する。

本書の全体を通じて示されるのは「居場所」の重要性である。学校に適応できず家庭でも冷遇されれば、子どもは二重に行き場を失ってしまう。学校外に無料や低額で通える居場所があれば、子どもは安心を取り戻し、保護者も救われる。その好循環が家庭の居心地を良くし、やがて学校や社会全体にも波及するだろう。

本書は不登校を個人の問題から解き放ち、社会の構造的課題として捉え直す試みである。記者としての分析と当事者としての体験が重なり合い、学校のあり方を見直す必要性が説得力をもって示される。「記者だからできること」を模索し、葛藤する著者の姿は、読者自身にもまた「私たちには何をすべきか」という問いを投げかけているようだ。

新刊一覧

●教育学

北欧の教育新潮流
未来につなぐ子育てと学び
佐藤 裕紀、林 寛平、中田 麗子、本所 恵、
北欧教育研究会 編著/328頁/
2200円+税/明石書店

●学校教育一般

ウェルビーイング・コンピテンシー
学びの現場にウェルビーイングを取り入れる
ための考え方と実践方法
平 真由子、渡邊 淳司、横山 実紀 著/
208頁/2090円+税/東洋館出版社

子どもが動くのは、ルールより関係だった
オルタナティブスクールから学ぶ
「つながる」教室づくり

学校で使える
ソリューション・フォーカスト・アプローチ
伊藤 拓 著/176頁/1800円+税/
大修館書店

生徒の強みに気づき、
「できる」を育てる心理学

学校で使える
ソリューション・フォーカスト・アプローチ
伊藤 拓 著/176頁/1800円+税/
大修館書店

なぜ教員の質が低下しているのか
朝比奈なを 著/288頁/950円+税/
朝日新聞出版

●教科学習

現代につなぐ歴史授業デザイン
星 瑞希、渡部 竜也 編著/224頁/
2260円+税/明治図書出版

●幼児教育

2050年の保育
菊地 翔豊 著/288頁/
1700円+税/日本ビジネスプレス

0〜2歳の発達お悩みQ&A
運動発達の専門家がわかりやすく答えます!
小島 賢司 著/146頁/
1600円+税/中央法規出版

●特別支援教育

発達障害・グレーゾーンの子どもを伸ばす
大人、ダメにする大人 学校生活編

小嶋 悠紀 著、齊藤 恵 イラスト/208頁/
1700円+税/徳間書店

教室でできる かんしゃくや感情爆発を
繰り返す子への認知行動療法

松浦 直己 著/136頁/
2200円+税/中央法規出版 合同出版

●人材育成・マネジメント

AI時代の組織の未来を創るスキル改革
リスキリング【人材戦略編】
後藤 宗明 著/312頁/
2200円+税/日本能率協会マネジメントセンター

人材育成の基本
網谷 征洋 著/256頁/
2000円+税/日本実業出版社

矛盾が成果に変わる組織をつくる
実践型リーダーシップのすすめ
宮下 篤志 著/168頁/
2400円+税/中央経済社

Learning
知性あるリーダーは学び続ける
デヴィッド・ノヴァク、ラリー・ビショップ 著、
楠木 建 監訳、児島 修 訳/472頁/
2200円+税/ダイヤモンド社

●その他

自分の頭で考える子に育つ
学ぶ力の伸ばし方

川島 慶 著/240頁/1700円+税/
ディスカヴァー・トゥエンティワン

不登校から人生を拓く
4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」
島沢優子 著/240頁/
1000円+税/講談社

不登校をチャンスに変える
一生モノの自信の育て方

福田遼 著/ 216頁/ 1600円+税/
KADOKAWA

注目の一冊

『「教育改革」は何を改革してきたのか 学校と教育の現在』

『「教育改革」は何を改革してきたのか
学校と教育の現在』
児美川 孝一郎 著/174頁/
1800円+税/誠信書房

日本の学校教育には1980年代半ば以降、「改革」の名の下に次々と手が加えられてきた。その結果として何が変わり、何が変わらなかったのか。本書は「授業」「生徒指導」「学校制度」「教師」「公教育」という5つの切り口から、教育改革の歩みとその帰結を検証する。

平等から個性重視へと舵を切った学力観の転換や、生徒指導をめぐる葛藤、教師の管理と統制の強化、公教育と教育産業のせめぎ合いなど、学校現場を形づくってきた主要な動きをたどりつつ、日本の教育に刻み込まれた特質や問題性をも浮き彫りにする。