「平賀源内甲子園」 未来のクリエーター育成と地域おこしを目指す

2022年度グッドデザイン賞を受賞した「平賀源内甲子園」は、香川県内の学生からキャッチコピーを募集し、クリエイティブの面白さを知ってもらい、未来のクリエイターの育成と、若い力を地域に取り戻すためのコンテストだ。

2月に香川県庁ホールで開催された授賞式

矢島 進二(やじま・しんじ)

矢島 進二(やじま・しんじ)

公益財団法人日本デザイン振興会常務理事。1962年東京生まれ。1991年に現財団に転職後、グッドデザイン賞を中心に多数のデザインプロモーションに従事。東海大学、九州大学、武蔵野美術大学等で非常勤講師。

江戸時代に博物学者や医者、画家、陶芸家、発明家など多方面で才能を発揮した平賀源内は、日本で最初のコピーライターともいわれている。それに因み、出身地である香川県では、県内の中・高・大・専門学校に通う学生を対象に、第二の平賀源内の発掘を目的として「キャッチコピーコンテスト平賀源内甲子園」が毎年実施されている。

その背景には、地方ではクリエイティブに対する理解度がやや低く、クリエイティブ業界を目指す人も少ないという課題があった。また、 香川県の地元企業就職率は大学・専門学校合わせて40%しかなく、60%は県外に出ていく実態がある。一度都会に出たら、就職や結婚などで地元に戻ってくる確率は低い。

こうした状況を変えようと、香川県立高松工芸高等学校出身のクリエイターが中心となって組織されたデザイン活動部隊「瀬ト内工芸ズ。」が、県内企業から協賛を集め、学生にクリエイティブの面白さと地元企業のことを知ってもらう機会を創出することを目的に2015年から同コンテストを開始した。

コンテストの“お題”を協賛企業のキャッチコピーとすることで、学生は対象企業を自主的に調べ、その過程で、企業や経営者が持つ理念やビジョンに触れ、認知が向上する。それが契機となり、県内企業への就職等に繋がり、若い世代が地元に残ると信じているという。

「瀬ト内工芸ズ。」は、協賛集めから、お題の設定、ポスター等の作成、発表会の運営まで、自発的に実施している。県内の学校122校を訪問し、コピーの意義や考え方などを先生と共有し、授業で取り組んでもらう。こうした活動の結果、初年度の応募数は約2,000本だったが、8回目となる2022年度は40校から約1,100人が参加し、6,812本にのぼる応募数となった。

審査の結果、今年のグランプリは、香川県立高松工芸高等学校デザイン科1年、石黒祐奈さんによる「令和、もう飽きてない?」が選ばれた。

グランプリは香川県立高松工芸高等学校デザイン科1年の石黒祐奈さん

特別審査員の岩崎亜矢さん(左)と角田武さん(右)

グッドデザイン賞の審査会でも「採用されたコピーが企業看板になることでコピーにも企業にも愛着が生まれる。優秀な人材が地元に残りたいと思える、コンテストを通じた派生効果は広く深く、よくデザインされた地域活性化の取組である」と評価され受賞を果たした。良き先行事例として、他の地域にも広がって欲しい活動だ。

今年のお題は選挙、香川の観光、移住など、全6題が出題

GOOD DESIGN

受賞者:瀬ト内工芸ズ。
受賞カテゴリー:教育・推進・支援手法
開始: 2015年9月14日
WEBhttps://setoco.jp/gennai-koshien/