『日本人が知っておくべきアメリカのこと』

『日本人が知っておくべきアメリカのこと』

『日本人が知っておくべき
アメリカのこと』

中林美恵子 著/256頁/1500円+税/
辰巳出版

史上初の女性首相が誕生した。就任早々の日米首脳会談に際し、高市総理は「日米同盟は世界で最も偉大な同盟」だとして、日米の新たな黄金時代を築いていく姿勢を示した。今ほど「アメリカとどう向き合うか」を真剣に考えるべき時期はないのではないか。そこでぜひ読んでみたいのが本書だ。

著者はアメリカ政治の専門家として長年ワシントンに滞在し、制度と現場の双方を熟知する。本書ではトランプ現象を通奏低音としつつも、それを一過性のショックとしてではなく、「アメリカという国の根源的な論理構造」に根差した現象として捉える。トランプの登場はアメリカ社会の矛盾が偶然爆発した結果ではなく、長い歴史の積層の上に生じた「必然」だというのである。著者は、この構造的理解を支えるために、アメリカの政治制度の成り立ちや政党システムの変遷を丁寧にたどっていく。

例えば、「大統領制=強大な権力」というイメージを抱く人もいるかもしれないが、実際には立法・行政・司法それぞれが相互に牽制しあい、微妙な均衡を保っている。また、共和党と民主党という二大政党の対立軸も、「保守 vs リベラル」という単純な構図ではなく、時代とともに変化してきた柔軟な政治的スペクトラムとして描かれる。

経済や軍事という「超大国アメリカ」の実像も描かれる。ドル高と財政赤字、経済格差の拡大、さらには「絶望死」というショッキングな社会現象まで、豊富なデータと現地感覚をもとに、経済的豊かさの裏側にある分断と不安の構造を浮き彫りにする。

アメリカはどこに向かうのか。読者が最も知りたいところだろうが、著者は安易な予測を避け、むしろ「大転換の最中には混迷が続く」という現実を見据えるよう促す。宗教、移民、ジェンダー、経済格差など、あらゆる分断線が入り乱れ、時代とともに価値の座標軸が動いている。その不安定さこそが、現代アメリカのダイナミズムであり混迷でもある。

著者が「アメリカを知ることによって、日本という国の可能性と限界を見つめ直すことができる」と述べるように、本書を通して見えてくるのは、アメリカを「同盟国」としてではなく、「思想実験」として読み解く視点の重要性である。極端な自由主義や過剰な愛国心、制度疲労と分断は、日本がこれから直面する課題でもある。アメリカの現実を「あれは私たちの未来かもしれない」と読み替える。日本の新政権が「親米」を掲げるなか、私たち一人ひとりもまた、アメリカという国の本質への理解を試みるべきではないか。本書は、そのための冷静で知的な羅針盤だ。

新刊一覧

●学校教育一般

子どもが秒で動き出す!
教師のシン言葉かけ
丸岡 慎弥 著/144頁/2000円+税/学陽書房

ほんものの学びに夢中になる
関わりあい高めあう授業づくり
ローレン・ポロソフ 著、山元 隆春、竜田 徹、
吉田 新一郎 訳/256頁/
2800円+税/北大路書房

教科書を網羅しない授業をつくる
宗實 直樹 著/224頁/
2000円+税/東洋館出版社

高等学校 探究的な学び実践事例集
次の一手への道しるべ
松下 佳代、石井 英真、奥村 好美、石田 智敬
編著/224頁/2400円+税/学事出版

●学級経営

人的環境のユニバーサルデザイン
学級・職員室編

阿部 利彦、赤坂 真二、川上 康則、松久 眞実
編著/246頁/2000円+税/東洋館出版社

●高等教育

大学生のためのデジタル学習スタートガイド
岩井 良磨 著/144頁/2200円+税/朝倉書店

めざせ社会人からの大学院
ー人生のマルチステージへの挑戦ー
佐藤 道彦、信藤 勇一、川本 隆廣、寺田 悦子、
齋藤 雅央、西川 明宏 編著/264頁/
1818円+税/大阪公立大学出版会

●ICT

AIと仲間と学び合う
生成AI×対話×仲間=新たな学びの領域へ
梅野 哲、益川 弘如、豊田 大登 編著、
相模原市立中野中学校 著/168頁/
2100円+税/明治図書出版

●幼児教育

実践にすぐに役立つ
保育「きほんのき」
青山 誠 著/96頁/1500円+税/小学館

●特別支援教育

特別支援教育
自立課題がすぐできる!
視覚的支援アイデア教材

山田 祥子、青木 高光 著/120頁/
2100円+税/学陽書房

●人材育成・マネジメント

なぜ、あなたのチームは疲れているのか?
職場の「心理的リソース」を回復させる
リーダーの思考法

櫻本 真理 著/368頁/
1800円+税/ダイヤモンド社

SHIFT解剖
究極の人的資本経営
飯山 辰之介 著/336頁/
1800円+税/日経BP

2030年の人事部
国本 和基 著/280頁/1800円+税/
クロスメディア・パブリッシング

1万人のマネジャーを指導した
コーチングのプロが教える 質問力で人を動かす
マイケル・バンゲイ・スタニエ 著、吉村 明子 訳
/272頁/2000円+税/
ディスカヴァー・トゥエンティワン

「人事のプロ」はこう動く
事業を伸ばす人事が考えていること

吉田 洋介 著/256頁/
2000円+税/日本実業出版社

●その他

対話するたび成長する AIセルフ・コーチング
自分専属のAIコーチの作り方
渡邊 佑 著/296頁/
1600円+税/三笠書房

読書する脳
毛内 拡 著/200頁/
950円+税/SBクリエイティブ

不確かな時代の「編集稽古」入門
田中 優子 著/216頁/
840円+税/朝日新聞出版

注目の一冊

『なぜ、部下の不満に気づけないのか リーダーの傾聴』

『なぜ、部下の不満に気づけないのか
リーダーの傾聴』
濱本 志帆 著/312頁/
1700円+税/総合法令出版

傾聴が大切であることを理解していても、マネジメントの一環として実践している人は多くないかもしれない。

急に辞めると言い出す、指摘したら反抗する。こうしたリアクションは、部下当人にとっては「公平さを取り戻すための行動」だと著者は言う。問題の根源は上司が「聞いていないこと」にあり、不満を初期段階で正しく聴き取れれば、職場トラブルの8割は未然に防げるという。

中小企業を中心に現場で培った知見に裏付けられた本書を読めば、傾聴こそが経営者や管理職に必須のスキルだと納得できる。