『日本の教育は「自立」をどう考えてきたか─心とからだの形成をめぐって』
『日本の教育は「自立」をどう
考えてきたか─心とからだの形成をめぐって』
上野 浩道 著/306頁/6800円+税/
東京大学出版会
「自立した人間を育てる教育」とは何だろうか。本書は、日本の近代教育史をたどりながら、「精神の自立」という観点から教育思想と人間形成のあり方を問い直した研究書である。
現代社会では、若者たちが「自分とは何者か」「どう生きるべきか」という問いに向き合いながら自己を確立することが難しくなっている。著者は、その背景には個人の資質や社会環境だけでなく、自立を阻害する教育と、自立を促す教育のせめぎ合いの歴史があったと見る。日本には本来、自らの意志で心とからだを統一し、自立をめざす「修養」という人間形成の伝統があった。しかし、その思想や実践は近代公教育の画一化や国家主義の高まりのなかで変質し、ときには国家統制のもとに組み込まれていった。一方で、そうした流れに抗しながら、自主的な人間を育てようとした教育実践も存在したのである。
本書の特徴は、教育制度や教育政策の変遷を追うだけでなく、「精神は何に依って立つのか」という根本問題に踏み込んでいる点にある。第Ⅰ部では、修養団運動や成城小学校の実践、戦時下の国民学校教育などを取り上げ、心とからだの形成が国家や学校制度とどのように結びついてきたかを検討する。そこから、修養思想や修養教育が、国家主義や戦時体制との関係のなかでどのように位置づけられたかが論じられる。
第Ⅱ部では、西田幾多郎の「無欲」、西田天香の「捨欲」を軸に、自立した精神の成立条件を探る。欧米の一神教社会とは異なる日本の宗教的・文化的土壌に注目し、非一神教社会における自立の特徴を考察する点が興味深い。著者は、日本における精神の自立の特徴を、「意欲」や〈投企〉という概念を通して読み解いていく。
第Ⅲ部では、福澤諭吉、岡倉天心、久松真一、大田堯といった思想家たちの議論を取り上げる。知育による「独立自尊」、美育による精神形成、「東洋的無」による主体性、さらには「教育はアート」という共育思想まで、多様な人間形成論を比較し、福澤や岡倉らの思想に依拠しながら精神の自立について考察している。
教育は知識や技能を伝達するだけの営みではない。人が挫折や葛藤を経験しながら、自らの意志で生きる力を獲得していく過程をどう支えるのか。本書は、近代日本の教育思想を再検討することで、精神の自立を促す教育の条件を探ろうとする。教育史、教育思想史の研究としてだけでなく、自己形成や人間の成長をめぐる今日的課題を考える手がかりを与えてくれる一冊である。
新刊一覧
●教育学
図解 最新教育ワード2026-2027
教育の未来を研究する会 編/120頁/
2060円+税/明治図書出版
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子どもを深く知るための「質的」授業分析
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やりたいがとまらない
最強の探究心の育て方
深い学びとウェルビーイングをひらく
「エンゲージメント」4つの扉
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学びにストーリーをつくる国語授業10の技術
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情報活用能力をどう育てるか
探究的な学びの基礎を養うための
カリキュラムと実践
高橋 純・水谷 年孝 編、春日井市立出川小学校・
春日井市立高森台中学校・春日井市教育委員会 著/
184頁/2400円+税/
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●学級経営
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毎日全力投球しなくても、
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探究が変わる、高校と大学のつながり
ディスカバ! 高校生10万人の体験から見えたヒント
高原 幸治、今村 亮 編著/192頁/
1800円+税/学事出版
●幼児教育
入学前から低学年のための
陰山流 新・おうち学習戦略
陰山 英男 著/224頁/1600円+税/
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●特別支援教育
発達障害・グレーゾーン 子育て大変だ
と思ったら これ、言ってみて!
吉野 加容子 著/288頁/1700円+税/
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●人材育成・マネジメント
アドラーだから自分で動ける部下が育つ
上司の教え方
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ディスカヴァー・トゥエンティワン
個人に依存しないチームをつくる
トヨタの業務「標準化」
ミス・属人化・残業が消える仕事の仕組み
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マネジャーのための時間管理術で
最高のチームをつくる方法
リソースを最適化してメンバー総活躍へ
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成人発達理論による
オーセンティック・リーダーシップ
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256頁/1700円+税/
日本能率協会マネジメントセンター
●その他
疲れ切った人のための勉強法
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ことばのヤングケアラー
“こども”でいたかった、
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212頁/2300円+税/クリエイツかもがわ
注目の一冊
『図書館と戦争と民主主義の百年』
渡邊 重夫 著/256頁/
3000円+税/青弓社
図書館は戦前・戦中、思想統制や戦争遂行にどのように関わったのか。本書は、国民精神総動員運動や太平洋戦争下の図書館の実態を通じて、図書館が国家の統制と無縁の存在ではなかったことを描き出す。
敗戦後、国立国会図書館の創設などを経て、図書館は民主主義社会を支える「知と情報」のインフラに、さらに学校図書館は子どもの学びと育ちを支える場として位置づけられていく。
図書館がたどった100年の歩みから、知る自由と学ぶ権利を支える制度の成り立ちを考える。
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