『美的経験と個性─ジョン・デューイと教育・デモクラシー・芸術をめぐる思想』
『美的経験と個性
─ジョン・デューイと教育・デモクラシー・芸術をめぐる思想』
西本健吾 著/296頁/5000円+税/
勁草書房
教育、デモクラシー、芸術は、互いに結びつく領域として長く論じられてきた。民主主義を支える教育とは何か。芸術は社会や教育にどのような役割を持つのか。本書はまず、こうした議論の前提となってきた三者の結びつきそのものを問い直す。
本書が検討するのは、アメリカのプラグマティズム哲学者ジョン・デューイ(1859〜1952)の思想である。デューイは、教育・デモクラシー・芸術を相互に結びつけて考えた思想家であり、現在の教育論や社会思想にも大きな影響を与えてきた。
ただし、本書の目的はデューイ思想の整理ではない。著者が問題にするのは、教育・デモクラシー・芸術の三者が過度に調和的に結びつくことだ。三者が密接に連動すると、民主主義社会はむしろ同質性を強め、対立や葛藤を排除してしまうのではないか。著者はこの点を、美的なものの政治的危うさという視点から考察する。
そこで浮かび上がるのが「個性」という概念である。本書は個性を無条件に価値あるものとして語る立場を取らない。個性的であることが社会的な規範になれば、それは個人に新たな圧力を生む可能性もある。個性を属性や目標として扱う考え方そのものが問題を孕むと、著者は指摘する。
本書が提示するのは、環境との相互作用のなかで、個性は結果として立ち現れるものと捉える視点である。個性は発見すべき資質でも到達すべき理想でもなく、経験の過程のなかで形づくられる。そこには既存の秩序に対する抵抗や、新しい可能性が生まれる契機も含まれているという。
こうした問題意識を具体的に示す例として、本書はブラック・マウンテン・カレッジの教育思想も取り上げる。芸術を教育の中心に据えたこの実験的教育機関を手がかりに、個人と共同体の関係や、芸術が民主的な社会に持つ意味が検討され、教育と社会の緊張関係が浮かび上がる。
議論は1920〜30年代のデューイ思想を軸に展開される。全体主義の時代状況を背景とした芸術論や美的経験論を手がかりに、作品と個性、習慣と経験、個人と共同体といった論点が検討される。鶴見俊輔の思想にも触れながら、デューイ思想に潜む緊張や可能性が掘り起こされる。
「個性を伸ばす」「創造性を引き出す」といった言葉は、教育や人材育成の現場で日常的に語られている。しかし、個性とはそもそも何なのか。それはどのように現れるものなのか。本書はその問いに即答するのではなく、教育・社会・芸術の関係を考え直す視点を提示しながら、個性という言葉の背後にある問題を掘り下げていく。
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