『自分を貫くための道徳思考─正解のない時代こそ「心の軸」が武器になる』
『自分を貫くための道徳思考─正解のない時代こそ「心の軸」が武器になる』
小川仁志 監修/224頁/1700円+税/
日本能率協会マネジメントセンター
「道徳」と聞くと、多くの人は学校で学んだ「ルールを守ること」や「正しい行動」を思い浮かべるだろう。本書は、その固定的なイメージを大きく更新する。価値観が多様化し、SNSでは「正しさ」が日々揺れ動き、AIが判断を肩代わりする時代だからこそ必要なのは、自分自身で問い、考え続ける力だというのが本書の一貫したメッセージである。道徳とは正解を暗記する学問ではなく、自らの価値観を磨きながら、他者との関係のなかで、よりよい行動を探り続ける営みなのだ。
学校で学ぶ道徳が「社会で生きるための基礎」を築く役割を担う一方、現実社会では、価値観の異なる人々と向き合いながら、その場に応じて判断を更新していく柔軟さが求められると本書は説く。「守る道徳」と「問い続ける道徳」は対立する概念ではなく、互いを補い合うものだ。共通のルールを土台としながらも、「本当にそれでよいのか」と問い続けることで、初めて生きた道徳となる。さらに、他人の価値観を理解し、対話を重ねる姿勢こそが、多様な社会を支える力になると論じる。
その考え方は、自己肯定感や誠実さ、約束、礼儀、努力、共感といった日常的なテーマへと展開される。成功も失敗も自分の選択として引き受ける覚悟、目先の利益より長期的な信頼を選ぶ姿勢、相手への敬意を形にする礼儀、結果だけでなく努力の過程に価値を見いだす視点など、抽象論に終わらず、仕事や人間関係の現場で生きる判断基準として道徳を捉え直している点が特徴だ。カントやソクラテス、ニーチェ、アドラーらの思想も参照しながら、現代社会で実践できる「大人の道徳」へと落とし込んでいく。
とりわけ印象的なのが、最終章で語られるAI時代の道徳だ。AIは膨大な情報を処理し、多くの判断を代替できるようになったが、「何を基準に選び、どこまで任せるのか」を決める責任だけは人間に残されていると指摘する。
技術は目的や価値を決めることはできず、判断を委ね続ければ、自ら考える力が鈍っていく。
さらに、AIには選択と判断の結果を引き受ける責任は負えない。
だからこそ、自分で問い続け、自ら判断する姿勢は、負担であると同時に、人間らしさの本質でもあると説く。SNSにおける匿名性や無責任な言動にも目を向け、正しさが1つではなくなった時代に、考え続けるための視点を授けてくれる。AIが急速に社会へ浸透する今だからこそ、自分の理性で判断し、その結果を引き受ける力を育みたい。
新刊一覧
●教育学
不平等と教育
日本の格差問題はなぜ解決しないのか
苅谷剛彦 著/288頁/
1050円+税/中央公論新社
新版 インクルーシブ教育って
どんな教育?
青山新吾 編著/176頁/
2200円+税/学事出版
基礎学力としての
メディア・リテラシー教育
自律と対話で世界を問い直す
佐藤和紀 著/360頁/
2500円+税/東洋館出版社
●学校教育一般
子どもの権利が満たされる学校へ
学校の生きづらさをほぐす
福嶋尚子 著/168頁/
2000円+税/学事出版
教科横断的カリキュラムデザイン
新しい教育課程へ向けた「学びの再定義」
松尾知明 著/224頁/
3000円+税/明石書店
教師の優先順位
土居正博 著/192頁/
2060円+税/明治図書出版
複線化する授業
子供の学びと教師の居方
中野裕己 著/200頁/
2000円+税/東洋館出版社
「振り仮名」があれば、学力は上がるのか
松本大 著/238頁/980円+税/ポプラ社
調整授業時数制度からAI活用まで
「余白」を生み出す学校マネジメント
仲渡隆真 著/176頁/
2000円+税/明治図書出版
●学級経営
「愛着」は学校で修復できる
問題行動を捉え直し、
子どもと教師を支援する“現場の道標”
本吉伸行 著/226頁/
2400円+税/学芸みらい社
「褒める」「叱る」のその先へ!
子どもの笑顔が増えるチェンジスキル
前田智行 著/200頁/
2000円+税/ソシム
●特別支援教育
<小児リハビリの専門家が教える
こどもの発達と支援まるっとガイド
療育・保育関係者必携
向坂愛理 著、多和田忍 協力/184頁/
2400円+税/中央法規出版
不登校だから、輝ける!
花まるエレメンタリースクールの挑戦
林隼人 著、楢戸ひかる 構成/192頁/
1800円+税/小学館
●人材育成・マネジメント
なぜあなたの部下は
指示を待ってしまうのか?
アドラー心理学に学ぶ部下育成
金井津美 著/272頁/1700円+税/
日本能率協会マネジメントセンター
●その他
ブリリアント・ジャーク
静かにチームを壊す人たち
沢渡あまね、伊達洋駆 著/368頁/
1900円+税/三笠書房
学歴社会から実力社会へ
AI時代の教育・雇用・評価を問い直す
野口悠紀雄 著/304頁/ 1050円+税/朝日新聞出版
13歳からのロジカルシンキング
答えのない問題の解きかた
望月安迪 著/252頁/
1700円+税/KADOKAWA
音楽脳×勉強脳の使い方
バイオリニスト・廣津留すみれの
「アタマ」の中
廣津留すみれ 著/224頁/
1700円+税/朝日新聞出版
親の「しんどい」が「大丈夫」に変わる
中学受験の味方
後藤和浩 著/288頁/
1700円+税/プレジデント社
注目の一冊
『探究の考え方』
田中茂範 著/224頁/
2200円+税/明治図書出版
AIの台頭もあり、社会の複雑化が進む今、教育に求められるのは、生徒自身の「考える力」を育てることである。本書は、探究学習を支える教師に向け、具体的な思考法と指導法を体系的に示した実践書だ。
問いを深める「ダイビング思考」、発想を広げる「エクスパンディング思考」、関係性を見いだす「ネットワーキング思考」、時間の流れを捉える「フローイング思考」を軸に、探究を支える思考モデルを解説する。授業ですぐに活用できる「魔法の問い」20も収録。探究授業を支える確かな指針となる。