『当事者発想─あなたの「誰かのため」は、何のためか?
『当事者発想─あなたの「誰かのため」
は、何のためか?』
佐藤徹、川合俊輔、各務太郎 著/360頁/
1850円+税/クロスメディア・パブリッシング
「誰かのために」と思って行動したはずなのに、相手に届かない。支援や配慮のつもりが、押しつけになってしまう。そのすれ違いを個人の善意や能力の問題にせず、構造から考え直すのが本書だ。
分かりやすい例として挙げられているのは、「助ける側」と「助けられる側」が対等ではないまま進む支援の危うさである。声を聞いた、共感した、配慮した。そうした手続きを踏んでも、当事者が置かれている状況や、声を上げにくい環境を見落とせば問題は解決しない。著者は「沈黙」を単なる意思表示として扱わない。声を上げない人がいるとき、そこには声を上げられない条件や、代弁によって本人の意思が見えにくくなる構造があるからだ。
本書でいう「当事者」は、困難を抱えた特定の人だけでなく、自分の痛みや違和感を出発点に、そこから社会の仕組みを見直す視点を持つ人である。著者は、当事者発想を「個人の痛みを未発見の社会課題への入り口にする」考え方として示している。ある人の困りごとを、その人だけの特殊な事情として閉じるのでも、すぐに「みんなの問題」へ拡大して薄めるのでもない。まず目の前のひとりがどこでつまずいているのかを見極め、そのポイントを制度やサービス、組織のあり方へつなげていく。
その方法として、本書は「点・線・面」の考え方を用いる。As-Isの「点」として現状のイシューを定義し、To-Beの「点」として望ましい状態を見出す。その2つを結ぶ「線」が戦略となり、さらに別の文脈へ広がると「面」になる。重要なのは、最初から平均的なユーザーや抽象的な「たくさんの人」を対象としないことだ。具体的なひとりの経験に深く入ることで、見えていなかった問題を発見する。そこから普遍化を試みるからこそ、「共創」や「ユーザー中心」を単なるスローガンで終わらせずに済む。
同時に、本書は当事者発想を「やさしさ」だけの話にもしない。Haveニーズ、Doニーズ、Beニーズ、イシュー定義、インサイド・アウトとアウトサイド・イン、N=1キャンバスなど、実践のための道具立てを紹介しながら、共感の障壁、内なる善意の壊し方、当事者発想5段階モデル、インクルーシブデザインの思想へと議論を広げていく。
支援や共創をきれいな言葉で終わらせず、関係のつくり方と仕組みの設計を見直す視点を提示する本書は、企業の新規事業、行政の施策、福祉や教育の現場で、「声を聞いたのに形にならない」と感じている人にとっても、その行き詰まりを考え直す材料になるはずだ。
新刊一覧
●学校教育一般
やってみたい 話してみたい
そのまま校内研修
林 大志郎 著/144頁/
2200円+税/明治図書出版
自分で考え、学べる子を育てる!
発問の技術
土居 正博 著/224頁/
2200円+税/学陽書房
自己調整学習と自由進度学習
自己調整を支える段階的な自由進度学習と
仲間と共有された調整
木村 明憲、伊藤 崇達、岡田 涼 著/160頁
/1760円+税/明治図書出版
●学級経営
1分からできる!
クラスの落ち着く力・切り替える力が育つ
教室マインドフルネス
太田 千瑞 著/112頁/
2060円+税/東洋館出版社
●ICT
「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす
AI×学び入門
安井政樹 著/256頁/
1800円+税/日経BP
●幼児教育
子どもとつくる日常と行事
文化が循環する子ども主体の保育
妹尾 正教、社会福祉法人仁慈保幼園 著、
大豆生田 啓友 取材/112頁/
2400円+税/Gakken
●人材育成・マネジメント
「教える」を手放す
人とチームの自律を引き出すコーチング
小井土 正亮 著/248頁/
1800円+税/ディスカヴァー・トゥエンティワン
外資系コンサルが教える
プロジェクトリーダーの仕事
吉橋 徹 著/360頁/
2400円+税/日経BP
図解でわかる!社員エンゲージメントを
高める7つの方法
山田 博之 著/184頁/
1900円+税/ディスカヴァー・トゥエンティワン
コンサル時代に教わった
仕事ができる上司の当たり前
西原 亮 著/304頁/
1700円+税/ダイヤモンド社
変革参謀
当事者が語る「リアル」
田村 誠一、野本 周作 著/192頁/
1700円+税/プレジデント社
「任せて育つチーム」はどこが違うのか
科学的に正しい「勝てる営業」のつくり方
高橋 浩一 著/328頁/
2000円+税/PHP研究所
プロジェクトマネジャーになる
峯本 展夫 著/320頁/
1300円+税/日本経済新聞出版
●その他
京大的教養
「正しさは伝わらない、楽しさはうつる」
酒井敏、杉本恭子 著/272頁/
2000円+税/ウェッジ
親子で一緒にゼロからわかる!
海外大学進学大全
松田 悠介 著/496頁/
2200円+税/実務教育出版
親が知っておきたい
子どもの脳と心の科学
日経サイエンス編集部 編/128頁/
2200円+税/日経サイエンス
図書館と戦争と民主主義の百年
渡邊 重夫 著/256頁/3000円+税/
青弓社
日本の教育は「自立」を
どう考えてきたか
上野 浩道 著/306頁/6800円+税/
東京大学出版会
注目の一冊
『人文知は武器になる』
山口 周、深井 龍之介 著/264頁/
1100円+税/文藝春秋
AIの進歩によって「正解」や「常識」が揺らぐ時代に、私たちは何を拠り所に意思決定をするべきだろう。
歴史や哲学、文明の変遷をたどりながら、本書は組織が衰退する構造や、成功体験が変化への対応を妨げる危うさを読み解く。単なる教養論ではなく、「なぜ世界の経営者は歴史を学ぶのか」「なぜ組織は内部分裂で壊れるのか」といったテーマを通して、現代の経営や社会の見方を問い直す。
日本社会の「空気を読む力」といった文化的特性を、弱みではなく可能性として捉え直している点も興味深い。