三重大学 「地域共創大学」として独自性豊かな教育研究を展開する
三重大学は人文学部、教育学部、医学部、工学部、生物資源学部に地域イノベーション学研究科を加えた5つの学部、6つの研究科を備えた「知の拠点」として、地域との共創に力を入れている。三重大学の教育研究の展開とビジョンについて、伊藤正明学長に話を聞いた。
地域に根ざした教育で
創造力に富んだ人材を育成

伊藤 正明
三重大学長
三重県津市出身。三重大学医学部卒。2006年8月に同大学院医学系研究科教授、2014年1月から2019年9月まで副学長を務める。2021年4月から現職。専門は循環器内科学。
──三重大学では、どのような教育活動に力を入れていますか。
本学は「地域を見つめ 三重から世界へ 世界から三重へ 未来を拓く地域共創大学」という基本理念を掲げています。その基本理念の下、様々な教育活動を展開しています。
地域に根ざした教育活動の一つが「三重創生ファンタジスタ(状況や事態を把握し、柔軟で豊かな創造力に富んだ発想と行動のできる人材)」の養成です。「三重創生ファンタジスタ」資格認定副専攻コースを全学的に展開し、「食と観光分野」「次世代産業分野」「医療・健康・福祉分野」「文化・社会・公共分野」「教育分野」の各分野をリードできる人材を養成することで、三重県における雇用の創出と若年層の県内就職率向上による地域の活性化を目指しています。
また、2023年度に「地域創造教育センター」を設置し、地域創造力(専門的知見×地域×アントレプレナーシップ)を養成する教育プログラムを開発してきました。具体的にはアントレプレナーシップに関する授業、地域の企業等を招く授業、地域に出ていくプロジェクト授業等の新規科目を開設し、全学生必修の「キャリア教育入門」の中にアントレプレナーシップ教育を導入し、2025年度から実施します。さらに、全学生に卒業要件化しているインターンシップの新展開として、企業に対する提案等を含めた「アントレプレナー型インターンシップ」を2026年度から実施する予定です。
大学院教育について、地域イノベーション学研究科では社会人を含めた多様な人材が学んでおり、プロジェクト・マネジメントができる研究開発系人材や、地域社会の課題解決に向けて、ゼロイチ(0→1)で新たな価値を生み出せる社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)人材を育成しています。
世界トップレベルの研究や
地域に資する独創的研究を推進
──研究力の強化に向けて、どのような取り組みを進めていますか。

「樹(松)のみどり」、「海のみどり」、「空のみどり」という『三翠』の自然豊かな広いキャンパス。
卓越型リサーチセンターを設置し、世界トップレベルの高度な研究を展開しています。現在、2つの卓越型リサーチセンターがあり、「エネルギー材料統合研究センター」では主に次世代型蓄電池の研究開発に力を注ぎ、「半導体の結晶科学とデバイス創製センター」では、深紫外LEDに関する研究で世界をリードする成果をあげています。
三重県には、半導体産業が集積しています。本学が世界レベルの研究開発を実施することで、共同研究による社会実装や人材育成を通して、地域企業に貢献することができます。
また、「次世代型VLPワクチン研究開発センター」でも社会実装の大型プロジェクトが進んでいます。同センターでは産学共同研究により、乳幼児や高齢者に重症肺炎を引き起こす恐れがあるRSウイルスに対する国産経鼻ワクチンの実用化に取り組んでいます。
ほかにも数多くの特色ある研究があります。その一つが2024年度に設置した「神事・産業・医療用大麻研究センター」における産業用大麻の研究です。大麻は長年にわたり「麻薬の植物」と一括りにされ、誤解や偏見を伴って認識されてきました。しかし近年、世界では産業用大麻の有するCBD(医療や健康・美容業界から注目される中毒性のない大麻成分。鎮痛作用やストレス緩和などの効果がある)の有効性や原料素材としてのポテンシャルの高さが注目されています。
三重県には伊勢神宮がありますが、日本において大麻は古来より神事でも用いられてきました。大麻は日本の神事・伝統・農業・産業において非常に重要な植物であるにもかかわらず、戦後の日本では、学術的に研究されることがありませんでした。本学では、学術研究により大麻に関する知見を蓄積し、産業用大麻の農学基盤を構築して、安全な神事・産業・医療用大麻の開発に貢献したいと考えています。
また、「国際忍者研究センター」や「海女研究センター」など、三重県の歴史文化に根ざした研究に力を入れており、地域の発展に貢献しています。
学内外との連携を深め、
地域が抱える多様な課題を解決
──地域との連携について、どのような取り組みに力を入れていますか。
三重県はよく「日本の縮図」と言われます。大都市圏に近く、人と産業が集積する北中部地域では、目まぐるしく変化する社会情勢に対応すべく新産業の創出やカーボンニュートラルなどの社会課題への対応が求められています。一方、南部地域は農林水産業が主産業で少子高齢化の進展も早く、今後はコミュニティの維持が大きな課題となってきます。
本学は「地域共創大学」としてこれら地域課題の解決に寄与するため、県内に5つの地域サテライトを設置し、各地域の課題や特性に応じた教育研究を展開しています。
これらの取り組みの加速に向けて、2022年には「みえの未来図共創機構」を設立しました。同機構は本学が掲げる地域共創の中核として、分野横断型・産学官連携型のプロジェクトの組み上げを行い、課題解決に向けて組織対組織で取り組むことを目的としています。
具体的な取り組みの一つが、桑名市における医療DXです。本学と地方独立行政法人 桑名市総合医療センターが連携し、パーソナル・ヘルス・レコード(PHR、個々人の医療・健康に関する情報)を活用して疾病悪化を早期に発見し、早期受診を促すなど的確な治療につなげるためのプロジェクトを推進しています。
また、本学が代表機関となって、三重県の最南端である紀南地域をフィールドとしたプロジェクトを展開しています。同地域の主産業である柑橘栽培を軸に、先進技術を活用しながら斬新な発想を持つ若者と地域住民が議論を重ねてイノベーションを展開し、若者が将来像を自由に描ける農村社会への再構築を目指します。
さらに石油化学工業が集積する北勢地域では、四日市市を世界から選ばれるカーボンニュートラルな先進環境都市へと転換するために、産官学が一体となって四日市CNXプロジェクトを推進しています。
本学は今後も「地域共創大学」として、学内外との連携を深め、地域課題の解決に資する教育研究に力を入れていきます。